樹木希林さんは言った、「あんた、えらいもんに手を出したわね」 原作者とプロデューサー語る「日日是好日」出演秘話

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   興行収入は10億円を超え、観客動員数100万人にも届こうかという2018年のヒット映画「日日是好日」。

   黒木華さん演じる主人公の「典子」がお茶を通じて成長していくストーリーで、茶道教室の先生である「武田先生」役に9月に75歳で亡くなった樹木希林さんが出演している。監督・脚本は大森立嗣さん。

   公開前から本格派女優の競演ということで注目が集まっていた本作だが、公開後も好調で、たとえばネット上の映画口コミ投稿サイトでは、映画を観た人が「ぜいたくな100分」「樹木希林が茶道を極めた先生に見えるのが凄い!」「存在感がすごかった」などの声が挙がっている。また、映画の原作者であるエッセイストの森下典子さんのもとには、茶道界から「樹木さんは茶道を長年続けていらしたのですか」と問い合わせが来たそうだが、実際には、樹木さんには茶道経験がほぼなかった。

   最初で最後となった樹木さんの「お茶の先生」誕生にはどんなストーリーがあったのか、J-CASTニュースは映画化のきっかけを作ったプロデューサーの吉村知己さん(株式会社ヨアケ)と原作者の森下典子さんに話を聞いた。

  • 出演:黒木華、樹木希林、多部未華子 監督・脚本:大森立嗣 原作:森下典子『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊) 配給:東京テアトル/ヨアケ (C)2018「日日是好日」製作委員会
    出演:黒木華、樹木希林、多部未華子 監督・脚本:大森立嗣 原作:森下典子『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊) 配給:東京テアトル/ヨアケ (C)2018「日日是好日」製作委員会
  • (C)2018「日日是好日」製作委員会
    (C)2018「日日是好日」製作委員会
  • (C)2018「日日是好日」製作委員会
    (C)2018「日日是好日」製作委員会
  • (C)2018「日日是好日」製作委員会
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  • 出演:黒木華、樹木希林、多部未華子 監督・脚本:大森立嗣 原作:森下典子『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊) 配給:東京テアトル/ヨアケ (C)2018「日日是好日」製作委員会
  • (C)2018「日日是好日」製作委員会
  • (C)2018「日日是好日」製作委員会
  • (C)2018「日日是好日」製作委員会

素晴らしい企画だけど、私じゃないから

   吉村さんによると、原作を手に取ったのは2015年。ふらりと立ち寄った図書館だった。なんとなく本のタイトルにひかれて読み始めたそうだ。「読み終えて、ものすごいパワーをもらいました。純粋にこの本を多くの人に読んでもらいたいと思ったんです」(吉村)。

   その出合いからほどなくして、大森監督とタッグを組み制作に取り組んだ。脚本が上がって監督と話すうち、主人公は黒木華さん、先生は樹木希林さんで勝負しようと決まった。

「樹木さんとは面識がなく、つてを頼って連絡をしました。樹木さんといえばマネージャーがおらず、すべてご自身で仕事の調整をされていらっしゃったのは有名な話ですが、本当にそうで、連絡手段は電話とFAX、手紙のみ。まずは手紙を送り、脚本と原作も見ていただきました。しばらくしてご本人から電話があって『素晴らしい企画だけど私じゃないから、ぴったりな人を一緒に探しましょう』とはっきり断るでもなく、予想外の返事に戸惑いました」

   それから樹木さんと吉村さんは電話でアイデアを出し合うことになるのだが、決定打はなく3か月が過ぎた頃、不意に樹木さんから『脚本と原作を返したい』とランチに誘われる。その時、大森監督も一緒だった。

「食事の間は仕事の話はさせてくれませんでした。関係のない話をして食後のコーヒーを飲んでいたとき、急に『私、やるわよ』とおっしゃった。提示された条件は一つ『主演は黒木さん』。あとはもう余計な話はせず、心変わりされる前に帰りました(笑)」

   吉村さんは「最終面接だったのかもしれない」と当時を振り返る。生涯であと何本映画に出られるか――。もしかしたらそんな中、慎重に選んだ作品だったのではないだろうか。

本人には会わずともバックボーンを取り込んだ

   原作者の森下さんは、「表千家教授」の資格を持つ。今回の映画にも茶道関連のアドバイザーとして撮影に協力した。森下さんは樹木さんに茶道の稽古もつけた。

   「撮影前、初めての稽古のとき、希林さんにはもうベースができていました。『あとは演技の直前に集中して覚えるわ』とおっしゃって、難しい『濃茶』も本番前日に私がお点前を2、3回お見せしただけで、すぐにご自分のものにされ、当日はエアーお点前で流れを確認する程度。そして、本番ではホンモノの武田先生らしい丸みのある自然なお点前になっている......本当にすごかった」と現場を振り返る森下さん。

   茶道経験がないはずの樹木さんがこのようにできたのは、実は稽古が始まる前から映画のオフィシャルアドバイザーを務めた観世あすかさんと秘密の特訓をしていたそう。

   また、樹木さんはプロデューサーの吉村さんに「武田先生のバックボーンを知りたい」とリクエストしていた。原作には書かれていない武田先生の生い立ちや人柄、趣味などを知ることで何か感じ取っていたのかもしれない。

   そんなことをせずとも、本人に会えばいいのでは? と思ってしまうが、「ご本人に会うとマネしようとしちゃうから」とこっそり森下さんに明かしていたそうだ。

   「後になってみると、ホンモノの武田先生になりきるよりも、森下さんのような方が生徒として育っていく茶道教室の雰囲気を考えて演じていたのかもしれない」と吉村さん。そうやって、映画の中の武田先生は作られていった。ものすごく美談のように聞こえるが、樹木さんの水面下の努力や映画制作にそそぐ情熱は、吉村さんには「俳優としてごく当たり前と思って行動されていた」風にも見えたという。

   映画の中で使われた茶道具や掛け軸などは、森下さんが通っている実際の「武田先生(仮名)」からお借りしたもので、原作の世界がほぼそのままに再現されているという。メインの舞台となったお茶室も、武田先生の家がある同じ横浜エリアで、樹木さんが親戚の空き家を提供した。横浜は樹木さんの実家があった地域でもあり、いろんな意味で縁のある作品になった。

「演じたら終わり」ではなく、宣伝も

   吉村さんは、稽古のとき「あんた、えらいもんに手を出したわね」と樹木さんから言われたことが忘れられないと言う。

「その真意は分からないままですが、私や監督が茶道のことを知らなかったから映画化できたのかもしれません。制作する中でお茶を映画にすることって、こんなに大変なのかと実感しましたから。樹木さんは、映画が完成したら俳優から宣伝モードにがらっと変わった。演じたら終わりではない、そのあとが大事と宣伝活動に全力を注いでくださった。お茶にゆかりの深い京都の建仁寺で行った完成披露イベントも発端は樹木さんでした。今の結果を見て、樹木さんがどう思われるか聞けないのが残念です」

   その京都でのイベントで、樹木さんはお茶を体験した感想をこう述べている。

「この次もし、縁があってこの地球上に生まれてくることがあったら、小さな茶室を設けて、夫と向き合って静かにお茶をたてながら人生をおくる、そういうことをしてみたいなあという気持ちにはなった」

   映画の公式サイトでは、「見どころ」をインタビューした動画が公開されている。その中で樹木さんは「見どころは自分で見つけて」と言いつつも、「来年もまた同じことができることが幸せなんですね......と行きつく。今の時代に必要な作品になれば」と伝えている。

   映画のヒットに合わせて、原作の売れ行きも伸びている。10月7日には原作の続編となる『好日日記(こうじつにっき)―季節のように生きる』(PARCO出版)が発売された。映画を見て、原作と続編を読み、お茶を通して成長した「典子」の物語をなぞっていくと、樹木さんが伝えたかったものが少しずつ見えてくるかもしれない。

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