テーブルを囲み、仲良く朝食をとる6人家族。そこへソフトバンクが上場するという情報が飛び込み、若い男女のきょうだいが「上場するんだー」と笑顔を見せる――。
個人投資家にソフトバンクの株式購入を呼びかけるテレビコマーシャルのワンシーンだ。IPOをアピールするテレビCMは異例で、ソフトバンクの主幹事証券会社が過去最大級の案件にかける意気込みがにじむ。
アリババに並ぶ史上最大級の超大型案件
ソフトバンククグループ(SBG)の通信子会社、ソフトバンクが2018年12月19日に東京証券取引所に上場する。SBGが調達する資金は2兆6000億円規模とされ、過去最大級の新規株式公開(IPO)となる。
これまで世界のIPOで最大規模だったのは、2014年にニューヨーク証券取引所に上場した中国のアリババ集団だ。資金調達額は当時の為替レートで約2兆7000億円に上った。だがソフトバンク上場は国内で過去最大だった1987年のNTT(約2兆3000億円)を超え、アリババと並ぶ超大型案件となる見通しだ。
SBGは巨額の調達資金を、成長企業への投資に充てる考えだ。これまでも、英半導体設計大手アーム・ホールディングスや、米ライドシェア大手ウーバー・テクノロジーズなどに投資してきた。SBGを率いる孫正義会長兼社長は、人工知能(AI)分野などの成長企業への投資に引き続き強い関心を示している。資金源となっているのが、サウジアラビアの政府系ファンドと組んだ10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」で、今回の上場で得た資金も組み込まれる可能性がある。
巨額の投資資金を得て、SBGは巨大投資会社への脱皮を加速する。孫氏は11月5日の記者会見で、SBGについて「来年、日本経済が経験したことのない営業利益を出せるのではないか」と自信を見せた。
「親子上場」と「官製値下げ」の圧力
しかし、親子上場に関しては、子会社の経営や資本政策が親会社の有利になるようコントロールされ、子会社の個人株主らの利益が損なわれるという問題点が指摘される。東証は親子上場について禁止はしていないものの、「望ましくない」との見解を表明している。今回の上場審査では、ソフトバンクの経営の独立性が保たれていると判断されて上場が承認されたが、上場後も大株主として君臨するSBGとソフトバンクの個人株主らの利益が相反しないか、懸念は残る。
ソフトバンクの成長性にも黄信号がともる。安倍晋三首相や菅義偉官房長官が「携帯電話料金が高すぎる」と繰り返し批判し、携帯大手各社へ値下げを迫っているからだ。一定の値下げは避けられない情勢で、ソフトバンクを含め各社とも対応する方針を示している。孫氏は「値下げしても増益は確保する」と強気の姿勢を示すが、第5世代移動通信システム(5G)への設備投資もかさむ中、孫氏の描く成長戦略が実現するのかは見通せない。 過去最大級のIPOは成功するのか。そしてSBGの次の一手は――。