あなたは知っているだろうか。あの日産前会長、カルロス・ゴーン容疑者が、かつて漫画の主人公になっていたことを――。
時は2001年。ゴーン氏は日産で推し進めた「リバイバル」改革が軌道に乗り、まさに時の人となっていた。そんなゴーン氏の元に、ある申し出が届く。
「あなたのことを漫画にするという案があります。いかがでしょうか?」
仏ル・モンドも取り上げた
「あとがき」によれば、ゴーン氏は一瞬驚きの表情を見せた。しかしすぐに、「それは面白そうだ。日本で漫画の人気が高いのは知っている」と快諾したという。
そうして生まれたのが、漫画『カルロス・ゴーン物語』だ。小学館の青年コミック誌「ビッグコミックスペリオール」で短期連載され、2002年に単行本化された。
それから16年。ご存じの通り、ゴーン氏は今や「容疑者」に。そんな中で、海外メディアを中心に、本作への注目が高まっている。たとえば仏ル・モンド(ウェブ版)は、
「カルロス・ゴーンがマンガの主人公だったころ」(2018年11月20日)
のタイトルで、漫画の内容や当時の反響などを紹介した。このほか、英BBC、米ブルームバーグなど、ゴーン氏逮捕を報じた少なくない記事が、「マンガ」の存在に触れている。ゴーン氏の存在の大きさを示す、そしていかにも「日本らしい」現象として、おそらくは海外メディアの目には映るのだろう。一方、日本メディアではいまのところ、ほとんど言及が見られない。
いったいどんな漫画なのだろうか。
どこにも売っていない!
せっかくだから買ってみよう――とネットで検索してみると、Amazonのマーケットプレイスで中古本が出品されているのを発見した。ところがその値段は、最も安いもので9696円!
いやいや、いくらなんでも――と別のサイトを検索してみる。ブックオフ・オンラインなら、198円だ。ところが、肝心の在庫がない。ほかの通販サイトも同じだ。商品ページは存在しても、取り扱いがないのである。
考えてみれば当たり前だ。なにしろ16年前の漫画である。当然ながら絶版だ。部数もそれほど多くはなかっただろう。「マニア」に受けるような本でもない。こういう本ほど、後から手に入れようとすると難しいのだ。以前記者は、「舛添要一 朝までファミコン」で同じような苦労をしたが、まったく同じパターンである。
もはや残っているルートは、約1万円のAmazonだけ。経費で落ちるだろうか。たぶん落ちないだろうなあ。「『カルロス・ゴーン物語』を1万円で買いました!」とか、絶対怒られるもんなあ――と思いつつ、自腹覚悟でポチることとした。
無免許運転のエピソードも
数日後、記者の手元に『カルロス・ゴーン物語』が届いた。
ハードカバー仕立てで、表紙には貫禄たっぷりのゴーン氏が描かれている。なかなか高級感ある装丁だ。「THE TRUE STORY OF CARLOS GHOSN」の英題とともに、
「企業再生の答がここにある!!」
という力強い惹句が記されている。
さて、内容だ。タイトルの通り、少年時代から始まり、経営者として日産再建にひとまずの成功を収めるまでの半生が、数々のユニークなエピソードを交えて描かれている。同時期に刊行され、ベストセラーになった自著『ルネッサンス』(ダイヤモンド社、2001年)と比べると、ミシュラン入社までの青春時代の比重が大きいのが特徴的だ。特に少年時代については、ひそかに無免許で親の車を運転したり、クラクションの音だけで車種を当てたり、といったカーマニアぶりがなかなかアツい。
また、妻のリタ氏との出会い、そして彼女の献身的な愛情もたっぷりと。そのリタ氏はすでに離婚し、「週刊文春」などにさんざんゴーン氏批判を口にしているのだが――。
作者があのカルト的名作の人だった
基本的には、ゴーン氏は当時のパブリックイメージ通り、明晰かつ現場も大切にする、パワフルで有能なリーダーとして描写されている。同時に、時には迷い、また悩む「人間くささ」も演出される。要するに、いかにも「マンガ的」なヒーローだ。
というわけで、(1万円の価値があるかは別にして)漫画としては面白い『カルロス・ゴーン物語』。ゴーン氏に取材して原作を手掛けたのは、フリーライターの富樫ヨーコさん。そして作画は、戸田尚伸さん。なんと、「週刊少年ジャンプ」に連載された「惑星をつぐ者」の作者である。短期連載で終わったが、ジャンプの「隠れた名作」としてしばしば名が挙がるカルト的タイトルだ。プレミアがついていたのは、もしかしたらこっちのせいかもしれない。
というわけでこの漫画、経費で落ちませんでしょうか。
(J-CASTニュース編集部 竹内 翔)