三菱重工業が2018年10月末、小型航空機MRJ(三菱リージョナルジェット)の開発子会社・三菱航空機に対する2200億円規模の金融支援を打ち出した。三菱航空機は3月末時点で1100億円の債務超過に陥っており、その解消が目的だ。だが、今回の巨額の財務支援だけではMRJ開発の先行きは万全とは言えず、最低限の基盤を整えたに過ぎない。
財務支援の内訳は増資が1700億円、債権放棄が500億円。三菱航空機は2008年にMRJの開発に着手し、当初は13年後半に初号機を全日本空輸(ANA)に納入する予定だったが、開発のトラブルが相次ぎ、5度にわたり延期。現在の納入予定は20年半ばだ。その間、開発費用が当初予定の約4倍の約6000億円まで膨らみ、三菱航空機の財務悪化の要因になった。三菱重工の小口正範CFO(最高財務責任者)は「三菱航空機の経営を三菱重工が主導してきた。その一定の責任はある」と説明。債権放棄で開発遅れの責任を明確化した形だ。
追加支援は不要との見方を示す
三菱航空機の株主には、三菱商事、三井物産、トヨタ自動車、東京海上日動火災保険、日本政策投資銀行などが名を連ねる。だが、増資を引き受けるのは三菱重工だけ。同社は他株主にも引き受けの意思を確認したが、いずれも応じなかった。債務超過の会社の増資を引き受けられないのは当然だ。
今回の増資により、三菱重工の持ち株比率は64%から86.7%まで高まる。その分、抱えるリスクも大きくなる。三菱重工の宮永俊一社長は記者会見で、「小型航空機は次の主力。コアビジネスとして育てる責任がある」と説明。「(座席数が90席タイプの)MRJ90の開発・量産までの基盤は作り上げた」と述べ、初号機納入の2020年代半ばまでに追加支援は不要との見方を示した。
だが、本当の正念場はこれからだ。開発が長引く間に、三菱航空機を取り巻く環境は厳しさを増している。MRJは一時、航空会社から最大447機の受注を得たが、米国の航空会社に40機をキャンセルされた。
裁判結果次第で影響を受ける可能性
さらに2018年10月下旬には、ライバルのボンバルディア社(カナダ)から「同社社員を雇用して機密情報を不正に得た」として提訴された。三菱航空機は飛行に必要な型式証明の取得が大幅に遅れたことで、それまでの自前開発主義を転換し、2015年ごろから外国人技術者の採用を始めている。宮永社長は「(三菱航空機に)過失はない」というが、裁判結果次第で影響を受ける可能性がある。
今回投じた2200億円は、三菱航空機の債務超過を解消し、初号機納入で売り上げが立つまでの最低限の支援に過ぎない。予定通り2020年半ばに初納入できたとしても、MRJの量産体制を構築し、収益が安定するまでにはさらに時間がかかる。リスクを承知のうえで巨額の資金を投じた三菱重工にとって、先の見えない戦いが続くことになる。