ハンドメイドのアクセサリーなどを制作・販売する作家に対し、購入希望者が大幅な「値切り」を持ちかけるという事例の報告が相次いでいる。ハンドメイド作家のツイッターの投稿を見ると、「材料費」と比較して「販売価格」が高いと言われた例が多く、半額以下の価格を提示されたケースも見られる。
J-CASTニュースが複数の作家を取材すると、デザイン料や技術料なども加味して価格設定しており、客にもその旨を説明するが、「素人扱い」されるなど理解を得られないことがあるという。大幅な「値切り交渉」を経験した作家は、実情を「知ってほしい」と理解を求める。
1200円の商品→「500円くらいとかでは無理ですか?」
「ハンドメイド高いって言われるやつDMで来ました」――。「Blue*Forest@デザフェスG289」(@kaito_x2525)さんはツイッターで2018年11月5日、購入希望者とのダイレクトメッセージ(DM)のやり取りを投稿した。ハンドメイドのキーホルダーの価格を聞かれ、1200円だと伝えると、「500円くらいとかでは無理ですか?」と半額以下の価格を提示されたり、「材料費100円とか200円とかじゃないんですか?」などと返信されたりした。「すみません」と理解を求めようとしたが、同客は設定価格での購入には応じなかった。
Blue*Forestさんは投稿の中で、
「手間賃高いと言われましても手間賃ないと次が作れないんです。わかって頂けたら幸いです。最後まで平行線でしたのですみませんがブロックさせて頂きました」
と報告していた。5万8000超のリツイート、7万7000超のいいねを集めるなど、多くのユーザーの目に留まっている。
ネットだけでなくイベントなどでも作品を発表しているというBlue*Forestさんは、ハンドメイド歴2年半の30代女性。J-CASTニュースの取材に応じ、今回「値切り」を持ちかけられたことについて、「イベントでは、悩まれたり『2つ買うのでお安くなります?』と聞かれたりすることはありましたが、直接DMで来たのは初めてでした」とし、「ビックリしたという思いしかないです」と率直な心境を明かした。
価格の決め方は「もちろん材料費も考えますが、基本は私ならこれくらいで売ってたら迷わず買うな!という値段を基本にしています」という。「欲しいなと思っても値段が高いと悩む事があるじゃないですか。それをお客様にして欲しくないので」と理由も明かした。
2児の母であり、作業しているのは子どもが寝た後の2~3時間に限られる。1つの作品が完成するまでに3~4日かかることもある。
「値切り」交渉をされたのは今回が初めてだったというが、もし業界で事例が今後増えていった場合、「ハンドメイドで作品を売るまでには膨大な時間とお金がかかっていますので、そこを軽視されるのではないかなと危惧はしています」と懸念を示す。その上で
「売る場所に出向くのももちろん、出展費用や委託料などもありますので、材料費を考えても黒字が出ないことなんて沢山あります。その点も広まればいいなと思います」
と、原価以外にも様々な費用がかかることを指摘した。
「拡散してあげるんで300円にして下さい」
「素人制作ですよね」。なぎさ(@nagisa___nana)さんは7日ツイッターで、購入希望者とのDMでこんな言葉をかけられながら値切り交渉されたと明かした。オーダーメイドのピアス制作にあたり、「700円プラス送料」がかかると伝えると、
「でもこれだけなら材料費そんなにかからないですよね?」
「素人制作に700円も払うひとなんていない」
「拡散してあげるんで300円にして下さい」
といった返信も来た。なぎささんは投稿で「なんかもうほんと、悲しいと思う、こういうの うん、自分の作品がまだ拙いから言われてしまうのも分かるんやけどね...」と複雑な思いをつづった。結局交渉には応じられず、この取引はなくなった。
なぎささんは、伝統工芸の「つまみ細工」を活用したハンドメイド制作を1年ほど続けている20代女性。取材に対し、値切り交渉を受けたのは初めてだったものの、「よくある事だと承知しておりますので、それ自体に不満や不当だとは思いませんでした」と冷静に話す。
ただ、「作家様やハンドメイド自体を批判するような悪意のある値下げ交渉が続くなら、ハンドメイド界隈自体が悪い印象を受けてしまうかもしれません」と懸念し、
「『原価に対して高すぎる売価』という点だけが世間に広まってしまいますと、それこそ『ぼったくり』のような扱いを受けてしまいます。制作時間や、それにかかった労力、アイデア等を考慮しての値段設定だということをもっと知ってほしいです」
と胸の内を明かした。価格は「原価、制作にかかった時間、パーツの数、技術料」なども加味しつつ、手に取ってもらいやすいようできるだけ安価にしているという。
ハンドメイド市場の縮小招きかねない?
値切り交渉を複数回経験している作家もいる。天然石を使ったブレスレットをメインに3年半制作を続けている(それ以前もアクセサリー修繕を十数年経験)という30代女性の「まきこまき(雑多垢)」(@kuro2maker)さんは、取材に対し、1か月で4人の購入希望者から値引きを持ちかけられたと明かす。
ある時は、天然石を使った2800円のブレスレットを「1000円にできないか」と聞かれた。64%オフの計算になる。14ミリサイズの磁気ありヘマタイト、アメジスト、ラピスラズリといった貴重な天然石を多く使っていたため「販売価格自体が赤字覚悟」の商品だったといい、説明もしたが、「ハンドメイドでやっているのなら、そこまで高価なものは使っていないだろう」などと言われた。理解は得られず、結局この取引はなくなった。
デザイン・制作から包装・配送までで4時間ほどかかることもある。価格の決め方は「『仕入れ価格+デザイン料』を計算し、これを基準に手間賃を上乗せしたり、お客様のお手元に届く時間を考慮し時間がかかってしまう場合は10%引いたりして決めております」とのことだった。
まきこまきさんは現在、ネットでのオープンな売買は休止しており、常連客との取引に絞っている。ハンドメイド界の今後について意見を聞くと、
「このような値切りが増えれば、私のように、ご新規様は迎えず、販売当初からの常連様相手のみで制作される方が増える可能性があります。また、収益が得られないことから、新作が作れず、尚且つ、精神的に疲弊し、ハンドメイドを辞められる方が増える事態を招きかねないと思います。ハンドメイドイベントも減り、金具などハンドメイド用品マーケットも縮小していくことでしょう」
と懸念を示した。「ハンドメイド自体を始めることが狭き門となってしまう未来が来てしまうのではないでしょうか」とも述べていた。
「『ハンドメイド=素人の手習い』的なイメージ」?
レジンを使ったハンドメイド歴が2年という30代女性も、取材に対し、大幅な値切りを要求されたことがあると明かす。価格を提示するなり「高い」と言われたといい、「プチプラアクセ作りをしているので、低価格には自信がありました。正直ショックです」と話した。また、
「どうしても『ハンドメイド=素人の手習い』的なイメージが抜けていないこともあるのでしょう」
と認識の差があることも指摘した。
ハンドメイドをめぐっては近年人気が高まり、メディアなどでもたびたび取り上げられている。一方、「低コストかつ手軽に稼げる」といった趣旨で紹介されることもあり、ツイッターなどでは作家や作品購入者とみられるユーザーから、実態を正確に映していないのではないかという声があがっていた。