大相撲の横綱稀勢の里(田子ノ浦)が2018年11月12日、九州場所2日目結びの一番で前頭筆頭の妙義龍(境川)に寄り倒された。
初日からの2連敗で引退の危機に立たされた稀勢の里だが、13日発売のスポーツ6紙はこぞって「休場危機」の見出しで報道。ネットでは「引退危機の間違いでは?」との指摘もあり、メディアの報道に疑問の声が上がっている。
進退に触れたのは2紙のみ
妙義龍との一番は完敗だった。立ち合い、稀勢の里は左を差しにいったが妙義龍にこれを阻まれ、逆にもろ差しを許した。必死にまわしに手を伸ばしたが、これが届かず、土俵際、強引に小手を振ったところを寄り倒された。
昨年春場所に横綱に昇進して以降、初日からの連敗は初めてで、通算14個の金星配給となった。
この連敗が持つ意味は非常に大きい。8場所連続の休場明けとなった先場所は10勝5敗で引退の危機を回避した。今場所も引き続き進退がかかった場所と見られていたが、初日からの2連敗にもスポーツ紙の紙面に「引退」の二文字は見られなかった。
以下がスポーツ6紙の13日付け大相撲紙面の見出しである。
スポーツ報知「稀勢連敗 休場ピンチ」
東京中日スポーツ「稀勢連敗 休場危機」
日刊スポーツ「あ~っ 危機の里」
サンケイスポーツ「稀勢 休場危機」
スポーツニッポン「稀勢連敗 休場危機」
デイリースポーツ「稀勢 連敗」
これら6紙の稀勢の里に関する記事で、進退に触れているのはスポーツニッポンとデイリースポーツの2紙のみ。ただ、この2紙にいたっても、記事の終盤に「進退問題が浮上しかねない」(スポーツニッポン)、「進退問題が浮上することは必至となる」(デイリースポーツ)とわずかに触れているだけで、大筋は休場危機の論調である。
元相撲担当記者の見立ては
スポーツ紙で6年間、大相撲担当をしてきた記者からみて、この状況でどのスポーツ紙も引退危機を報じないということは違和感を覚える。8場所連続の休場明けの先場所は、「序盤に負けが込むようならば引退も」との論調が主だったスポーツ紙が、ここにきて一転した。
先場所は体調が危ぶまれる中、初日から5連勝をマークして序盤を乗り切った。上位陣と対戦する終盤戦に星を落としたが、最低条件とされる二桁勝利を挙げたことで一度は引退の危機を乗り切った。これで引退の危機が完全に払しょくされたかといえば、そうではないだろう。
初日、2日目の相撲を見る限り、事態は先場所よりも深刻である。だが、なぜスポーツ紙は引退の危機に触れないのか。おそらく、取材をしている現場の記者が、稀勢の里が今場所休場しても引退はないという感触を得ているのだろう。何かしらの「ウラ」を取っている可能性も考えられる。
通常、横綱の引退問題が浮上した場合、記者は横綱の師匠である親方、横綱審議委員会、部屋の後援会関係者らを取材する。今回もすでにそのあたりは取材済であろう。これら関係者を当たった結果、休場=引退には結びつかなかったと考えられる。先場所、10勝を挙げたことで、引退問題は一度リセットされたということなのかもしれない。
今場所は白鵬、鶴竜の2横綱が休場し、一人横綱の稀勢の里が土俵を守ってきている。稀勢の里の休場危機が、引退危機に発展するかは分からないが、稀勢の里が休場の危機にあることはだけは事実である。
(J-CASTニュ-ス編集部 木村直樹)