時速280キロで車を運転した男(35)を大阪府警が書類送検。道路の制限速度は60キロだった。男がネット投稿したとみられる動画では速度表示が300キロに達する場面も――
こんなニュースを各メディアが伝え、テレビでは該当する動画も紹介した。また、一部の社は「最高速度を制御するリミッターが外されていた」ことに触れた。普段運転する範囲では馴染みの薄い「速度抑制装置(スピード・リミッター)」だが、そもそもどんな装置なのか。国産車と輸入車では状況が異なり、また今では車種によっては、GPS(衛星利用測位システム)と連動して特別な場所のみ解除できる仕組みもあるなど技術が進歩している。
「時速180キロ以下」の自主規制もあるが...
「280キロ暴走男の送検」については報道各社(ウェブ版)が2018年11月5~6日に報じたが、リミッターに触れたのは一部だった。「(男は)『最高速度を制御するリミッターを外した車を買ったので、性能を試したかった(略)』などと容疑を認めている」(NHK)、「車はリミッターが外され、通常より速度が出るように改造されていた」(毎日)、「運転最高速度を制御する装置が外されていた」(産経ニュース)といった具合だ。
また、男が乗っていた車については、毎日新聞と東京新聞が具体的な国内メーカーと車種名に触れ、朝日新聞は「国産メーカーのスポーツタイプ」との表現だった。
「速度抑制装置(スピード・リミッター)」とは何か。国土交通省と日本自動車工業会(自工会)によると、国内メーカーの(国内用)普通自動車の場合、車が出すことができる最高速度を「時速180キロ以下」に制限する装置で、業界側の自主規制で装備している。車の本来の性能では180キロ超を出すことができても制約をかけるわけだ。
一方で、トラックの一部(総重量8トン以上または最大積載量5トン以上)などには、法規制があり、道路運送車両法の保安基準で「時速90キロ以下」のリミッターの装備が義務付けられている(2003年から。違反の場合、処分・罰則あり)。
自工会に話を聞くと、「(国内用普通車の)時速180キロ以下のリミッター装備」の自主規制は、当初は暴走族対策の一環として1975年頃に国と各メーカーが話し合って導入したという。「180キロ」という数字の設定は、当時の高速道路の最高速度規制(100キロ以下)を基準に、「勾配6%の坂を100キロでのぼる」性能は、平坦な場所では「180キロ」にあたることから決めた。
輸入車は「自主規制」対象外
もっとも、この自主規制は、輸入車には適用されない。日本自動車輸入組合(東京都港区)によると、スピード・リミッターに関するガイドラインはなく、各社任せになっている。いくつかの輸入車の日本法人やディーラー関係者らに話を聞くと、本国仕様の通りで、リミッターを装備・設定しているブランドも、していないブランドもあった。
メルセデス・ベンツは「モデルにより異なるが、概ね200キロ以下で、スポーツ仕様車では200キロ超の数字で設定されているものもある」。BMWは「基本的に210キロ以下で、スポーツタイプでは250キロ以下のものも」。ポルシェとフェラーリは、いずれも(ある程度、任意の速度で)設定することは可能だが、通常では設定されていないそうだ。
逆に国産(普通)車を輸出する場合や現地生産する場合は、どうしているのか。日産によると、スピード・リミッターは基本的に装備している。設定速度は、現地の法律や車種によっても異なり、具体的には公表していない。ホンダは、「(回答期日に確認が間に合ったアメリカ、中国などへの輸出車については)規制がないため、リミッターはつけておりません」との回答だった。
国産車でも車種によっては、サーキット場限定でGPSを使って車の位置を確認し、リミッターをはずすことができるものもある。マイカーを持ち込んでサーキット場で走る人向けで、サーキット場から外に出ると、リミッターが再設定される。また、整備業界関係者によると、車いじりに詳しい人の中には、サーキット場走行のために個人でリミッターをはずす人もいるし、レース関係の顧客が多い整備工場の中には、普通車のリミッターはずしに対応する所もあるようだ、という。