2018年秋の今国会で話題になっているのが、出入国管理法改正案である。これまで専門的・技術的分野に限っていた在留資格に新たな分野を設けようとするものだ。
これは、現在の人手不足という状況に鑑み、人手不足を解消するために産業界からの要請を受けているといわれている。ちなみに、改正法骨子では、「不足する人材の確保」として在留資格の創設が書かれている。
本質は雇用環境にある
今の雇用環境を確認しておこう。アベノミクスの異次元金融緩和によって、実質金利が相当程度低下し、為替安、株高をもたらし、同時に実質金利低下が継続して、人やモノへの投資も徐々に増加している。特に雇用環境の改善は顕著だ。
民主党政権では減少傾向であった就業者数は安倍政権で反転・増加傾向に転じて6300万人から6600万人へと300万人程度も増加している。失業率もほぼ下限近辺ともいえる2.5%程度まで低下している。このため、名目賃金は上昇傾向だ。実質賃金についても、当初は名目賃金の上昇が物価より遅れるために低下したが、最近では底を打ち反転・上昇傾向に転じている。
今回の入管法改正案がその良好な雇用環境へどのように影響をもたらすのか、正直よくわからないが、それが問題だ。野党は、今回の改正が移民政策かどうかなどというピンボケの質問はやめて、雇用環境がどうなるのかという本質的な質問をすべきだ。
現在の日本では、一定数の「外国人労働者」がいる。アベノミクスによって、「外国人労働者」も70万人から130万人へと60万人増加した。130万人の内訳で、雇用環境に影響を与えるといわれるのは、留学生アルバイト30万人と技能実習生25万人であるが、アベノミクスでそれぞれ20万人、10万人程度増加した。
今度は内部留保を吐き出す番
先進国では、就学ビザの留学生は原則働けず、労働者でありながら事実上労働基準法を適用しない技能実習生は理解しにくい。今回の入管法改正案が、これらの留学生アルバイトや技能実習生に新たな在留資格を与え、法的にきちんと認めることであれば、今の外国人労働者の総数は変化しないために雇用環境に影響ない。しかし、一部の新聞報道では新たに4万人程度の外国人労働者を受け入れるとも報道されており、それが事実なら、これまでの受け入れ実績から見て、確実に雇用環境に悪影響となるだろう。
今回の入管法改正が、人手不足を理由とする産業界からの要請で動いているが、これは正直言って気がかりである。産業界が人手不足と言うときには、賃上げをしたくないという本音が見え隠れする。筆者は人手不足はマクロ経済にはいいことであり、この際、企業がため込んだ内部留保を吐き出す番であると考えている。最近では、企業収益が好調で労働分配率は低い。ここ5年間で労働分配率は5%程度低下しているので、今度は労働者が取り戻す番だ。
この観点からみれば、基本的には外国人労働者を新たに受け入れずに、今まで受け入れてきた留学生アルバイトと技能実習生にきちんとした在留資格を与えて、その後はきっちり管理するというスタンスが望ましい。
現状のビザは抜け穴の度が過ぎる
例えば、先進国の就学ビザでは原則労働禁止であるが、日本では1週28時間以内は可能とか、抜け穴の度が過ぎる。先進国のビザは、就労条件について厳格に定められており、その点日本のビザでは曖昧であることが問題だ。この際、入管法改正によって、先進国並みの在留資格において就労条件の明記が必要である。そして、それを適切に運用することによって、邦人の雇用が失われないようにしなければいけない。
と同時に、在留者やその家族の社会保障制度などの適用においても、これまで不適切使用が何度も指摘されてきたので、誰からも文句の言われないような制度作りも必要である。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「未来年表 人口減少危機論のウソ」(扶桑社新書)など。