岩手県競馬組合は2018年11月5日、10月に行われたレースに出走した競走馬から禁止薬物が検出されたと発表した。同組合によると、検出されたのは禁止薬物に指定されている筋肉増強剤「ボルデノン」で、岩手競馬で競走馬から禁止薬物が検出されたのは、7月と9月に続いて今年3度目となる。
禁止薬物が検出されたのは、水沢競馬場の高橋純厩舎に所属する牝の3歳馬ヒナクイックワン号で、10月28日に盛岡競馬場で行われたレースで1着に入った。岩手競馬では、1着と2着に入った馬に対してレース後の尿検査を義務付けており、今回、尿検査の結果、ヒナクイックワン号から禁止薬物が検出され陽性が確定した。
方法、目的など謎だらけ
盛岡競馬場では、7月に行われたレースに出走したスターズレディ(牝5歳)から今回と同様の禁止薬物「ボルデノン」が検出され、9月には今回と同じ高橋純厩舎所属の馬から同じ薬物が検出されていた。
競馬関係者によると、地方競馬の同じ競馬場で4カ月の間に立て続けに3度も競走馬から禁止薬物が検出されたのは非常に珍しいケースだという。犯行の方法や目的など多くの謎が残っており、事件の真相は明らかになっていない。
盛岡競馬場は、内に1400mのターフコース、外に1600mのダートコースを配した競馬場で、盛岡駅からバスで30分程度の周囲を緑に囲まれた場所にある。6000人を収容し、今年9月にはナイター競走にも対応可能な照明塔がダートコースに設置された。
盛岡競馬場に出入りする関係者によると、厩舎の入り口には鉄製の門があり、ガードマンが常時在中しているという。厩舎に入る際には、厩舎関係者は通行証、メディアはIDを提示しなければならない。
部外者が厩舎に侵入するのは極めて難しい状況にある一方で、見ず知らずの者が競走馬に薬物を注入するのもまた、不可能に近いという。
「少額」賞金のためにリスク犯すか
前出の関係者は「競走馬はかなり神経質です。よほど競走馬の扱いに慣れた人間でないと、近付くことは難しいでしょう。まして薬物を注入するなんてことは、常識では考えられないですね」と話した。
競馬はレースによって賞金がそれぞれ設定され、競走馬の順位に応じてジョッキーや厩舎関係者が賞金を得る。仮に内部の関係者による犯行ならば、この賞金が目当てで犯行に及んだと推測されるが、地方競馬の場合、中央に比べて賞金はごく少額。7月のレースで禁止薬物が検出された際、岩手競馬組合がジョッキーなどから返還を求めたのは、レース賞金を含む11万7千円ほどだった。
また、前出の関係者は部外者が競走馬に禁止薬物を注入するメリットがないと指摘した上で、「考えられるのは、その厩舎関係者に対する怨念。禁止薬物の使用が発覚すれば何らかのペナルティーが与えられるわけですから。怨念以外は考えられませんね」と、犯行の動機になりうる心情について言及した。
今事件に関して謎が深まる一方だが、過去、日本の競馬会で禁止薬物が検出された大きな事件として、2006年の凱旋門賞でのディープインパクト事件が挙げられる。フランスのロンシャン競馬場で行われた同レース後、理化学検査でディープインパクトの体内から禁止薬物「イプラトロピウム」が検出され、同馬が失格処分を受けた。
これに伴い、ディープインパクトを管理する池江泰郎調教師に15000ユーロ(当時の換金レートで約227万円)の制裁金が科され、日本中央競馬会(JRA)は同馬に同行した日本人開業獣医師に対し、JRA診療施設の貸し付けを2006年12月4日から6カ月間停止する処分を行った。