東京証券取引所は2018年10月23日、9日に発生したシステム障害についての報告書を金融庁に提出した。メリルリンチ日本証券からの大量の電文誤送信が発端だったと特定する一方、東証自らも「十分な使命を果たせなかった」として社長ら3人を処分した。
今後はシステム対応を強化し、証券会社との間で障害テストを実施して再発防止に努めるとしている。システム障害を起こさないことがまず必要だが、万が一起きてしまった場合のバックアップも重要だ。今回、バックアップがうまく働かなかった証券会社は、早急な対応が求められる。
主要ネット証券は対応できたが...
東証によると、障害は10月9日7時31分に発生した。メリルから東証の売買システム「アローヘッド」に対して、通常の1000倍に上る大量の電文が送信され、証券会社と東証を結ぶ4回線のうち1回線がダウンした。メリルが自社の2つのサーバーに、誤って同一のIPアドレス・管理番号を設定し、同時に東証のシステムに接続を試みたため、東証側の負荷が高まり、安全装置が働いたという。関係者によると、メリルの顧客である海外の高速取引業者(HFT)が、メリルのシステムを経由して誤って大量のデータを送りつけたのが原因とみられるという。
残る3回線は正常に機能していた。東証は日頃から取引に複数回線を使うよう、証券会社側に求めており、今回、改めて正常な回線に切り替えて利用するよう要請。全銘柄、通常通りの取引スケジュールで場が開いた。主なネット証券は正常に取引できたが、切り替えがうまくいかず、対応できなかった社があった。対応できなかったのは野村証券、SMBC日興証券など、対面型の証券会社が中心。その数は40社弱に上る。
切り替えがうまくいかなかったからといって、いったん受け付けた注文を勝手に取り消すわけにはいかない。それこそ証券会社の信用問題になる。そこで、本来、約定していたであろう価格で「肩代わり」した。日本経済新聞などによると、全体で10万件規模になるとみられるという。
東証と証券会社が綱引きするか
この10万件の扱いは東証と証券会社の争いになる可能性がある。うまく注文できず、肩代わりする羽目になった証券会社側は、責任は東証にあると考えている。一方、東証側は、正常回線にうまく切り替えられなかった証券会社側の落ち度だとみている。双方、主張を引っ込めるわけにはいかず、最終的に白黒はっきりさせるためには法廷で争う事態も予想されるが、それには膨大な時間とコストがかかる。ただ、件数こそ10万件規模と多いが、証券会社側が被った損失はたいして多額にはならないともいわれ、賠償請求せずに矛を収める可能性もありそうだ。
今回の事態の責任について、東証は宮原幸一郎社長を10%減給(1 か月)、IT分野などを担当する横山隆介常務執行役員をけん責、担当部長を厳重注意――とする処分も発表した。併せて、証券会社と原因や対応策についての情報を共有する場を設けた上で、再発防止策としてシステム対応の強化や障害対応テストなどを行うとした。
これにより、今回のシステム障害には区切りがついた形だ。ただ、取引できないというのは市場にとっては致命的な不祥事。世界では取引所間の競争の時代に突入しており、それはシステム競争ともいわれる。人為的なサイバー攻撃などへの脆弱性も露呈した形で、日本の株式市場の信頼回復に向け、万全の対策が必要だ。