コンビニでお酒を買う際、年齢確認のタッチパネルを押す――わずか数秒に過ぎないこの行為にあらためて注目が集まっている。システム導入から約7年。いまだに、「パネル押し」の要求に激高して暴れた40歳代の逮捕者を出すほどの古くて新しい問題だ。
このほど新聞投書に賛否の声が寄せられたことをきっかけに、ネット上でも議論が再燃。余波としてか、「本味醂(編注:酒税法上は酒類)にまで年齢確認いるってびっくり」と驚く声も寄せられた。現在の対応状況について、コンビニ大手各社や味醂(みりん)業界に聞いた。
年齢関係にブチギレ、パネル壊した中年男
「何で毎回(パネル押しを)せなあかんねん」。コンビニで酒類販売の際に店側が求めるパネルタッチによる年齢確認に激高し、レジの液晶パネルを壊したとして兵庫県宝塚市の男(46)が2018年7月1日、県警に現行犯逮捕された。神戸新聞(ウェブ版)などが報じた。
見た目で明白に「未成年には見えない」大人が、なぜパネルを押さなければいけないのか――こうした抵抗感をもつ成人、なかでも中高年以上の人は少なくない。かつては、タレントの梅沢富美男さん(67)が、テレビ番組「ニッポン☆ダンディ」(東京MX)で12年10月、こんなエピソードを明かして話題となった。コンビニで酒を買う際、店員からパネル押しを求められたとして、
「オレが19(歳)に見えるわけねぇだろ!60過ぎてるジジィをつかまえて押せとはなんだコラ!!!」
と、番組内で机を「バン!」と叩いて怒りを新たにしていた。男性共演者からは「それ、ホンマにそう思いますわ」と共感も寄せられた。当時、J-CASTニュースなどが報じた。
以来、時おり話題となってきた「年齢確認タッチパネル賛否問題」。2018年10月には、朝日新聞(東京本社版)の朝刊「声」欄にこのテーマが複数回取り上げられ、ネット上でも話題となった。
84歳の投書「大変不愉快なこのシステムを...」
2日には「おじさん あなたは偉くないよ」のタイトルで、「19歳の高専生」の意見が載った。コンビニでアルバイトをしていた際、お酒を買おうとした50代くらいの男性が、「は?俺が未成年に見えるか」と年齢確認のパネル押しに抵抗し、「怒鳴ってきた」そうだ。投稿者は
「いちいち文句を言って会計の時間を延ばす方がよっぽど面倒だと気づかないのだろうか」
と疑問を呈していた。
この投稿に対して後日、賛同する「声」も掲載されるなか、29日には「84歳の無職」の人による「怒りたくない 普通に買わせて」との「反論」も紹介された。店のルールに従って仕事を遂行しようとした「2日の投稿主(貴君)」には、「何ら文句を言われる筋合いはないと思います」と理解を示しつつ、怒鳴った壮年に対しても
「だれかれ構わず年齢確認パネルをタッチさせるシステムに怒りが爆発したのではないでしょうか」
と賛意を表した。自身も「数年前、同種のトラブルになった」そうで、
「各コンビニの親会社は大変不愉快なこのシステムをレジから排除するか、明らかに成人とわかる人(特に老人)については店員がタッチ可、としてはどうでしょうか」
と提案している。
こうした投稿内容はツイッターなどでも紹介され、それぞれの意見に賛否の声が寄せられている。
業界団体は年齢確認の「義務化」求める
現状の対応状況について、コンビニ大手各社に聞いた。
2011年末に業界他社に先駆けて「年齢確認タッチパネル」を導入したセブンイレブンと、12年夏に全国導入したローソンは、現在も確認パネルを使用しており、原則的に「(酒類購入者)全員を対象」にパネルタッチを押すよう求めている。当初は導入を見送っていたファミリーマートも現在では使っている。やはり原則、全員を対象にしており、スタッフの判断で身分証提示を求めるケースもある、と説明した。
一方、ミニストップはパネル確認を導入してはいるが、「明確に20歳以上と分かる」場合は状況に応じて店舗スタッフが(スタッフ用の)パネルを押す運用を認めている。やはり状況次第では身分証明書の提示を求めるようにしている。
いずれのコンビニも現行の運用を続ける方針で、「不満の声などを受けた取りやめの検討」は行っていないそうだ。
また、コンビニ大手も加盟する日本フランチャイズチェーン協会(一般社団法人)によると、18年5月公表のコンビニ大手8社のアンケート結果(回答店舗、約5万6000店)で、「レジの年齢確認タッチパネル」の導入店の割合は、酒類扱い店の83.5%に及んだ。また、タッチパネルに限らないが、酒購入の際の年齢確認時にトラブルがあったと回答した店舗は17.4%だった。協会の担当者は
「一部の人にだけ年齢確認を求めるのは難しく、原則、全員にお願いしている。大人として見本を示すつもりでご協力をお願いしたい」
と話す。一方で、トラブルが継続的に報告されていることから、酒類購入時の年齢証明の義務化などを定める法律や条例の制定を求める要請を、以前から国や自治体に行っているという。
本味醂と味醂風調味料
また、朝日投書が話題となった余波か、ツイッターでは「コンビニで味醂を購入したのだけれど、味醂にまで年齢確認いるのってびっくり」(10月29日)といった声も出ていた。10月には他にも「味醂買うために年齢確認される」「みりん買う時って、どうして年齢確認するのかな?」といったツイートもあった。もっとも、同様の声は以前から寄せられており、2015年には「NAVERまとめ」でも紹介されている。
一口に味醂といっても、「本味醂」はアルコール分が約14%あり、酒税法上の酒類にあたるが、「味醂風調味料」というものもあり、こちらはアルコール分が1%未満で、酒類扱いではない。このため、コンビニの年齢確認対象になるのは、本味醂の方だ。
全国味醂協会(東京都中央区)の担当者に話を聞くと、
「最近も業界内の雑談で、コンビニへ子供が買い物に行ったが、味醂は年齢確認を求められ、買えなかったという話を聞いた。残念だね、という声が出た」
とのことだった。しかし、業界として、年齢確認対象からはずすようコンビニ業界に求める、などの動きは出ていないそうだ。
ただ、メーカーを含む味醂業界のある関係者は、
「飲むお酒の年齢確認は必要だと思いますが、調味料の味醂は確認対象からはずしても良いのでは、という気がしています。たとえば一人暮らしを始めた19歳の大学生が、料理のための味醂を買えなかった、という話を聞くと、そこまでの規制の必要はあるのだろうかと思ってしまいます」
と感想をもらした。
「20歳未満のために協力してやろう、という気持ちで...」
そもそも、なぜこのような確認が行われているのか。基本にあるのは、未成年者飲酒禁止法(18年夏に「二十歳未満の者の飲酒の禁止に関する法律」が公布)で、飲酒が禁じられている満20歳未満の人の飲酒の防止に資するため、年齢確認その他の必要な措置を講じるもの、とされている。また、20歳未満の人の飲用に供することを知りながら酒類を販売・供与した営業者には、罰金や販売免許取り消しが課される可能性がある。
未成年者飲酒防止に関連しては、たとえば2016年7月、警察庁と厚生労働省、国税庁が連名で、「酒類小売業界等」に要請書を出している。第1番目の項目として
「未成年と思われる者に対しては、運転免許証やマイナンバーカードなど本人の年齢が確認できる証明書の提示を求める等の方法により年齢確認を確実に行うことで、未成年者への酒類の販売又は供与の禁止を徹底する」
とある。「未成年者と思われる者に対しては」との表現だけをみると、「(購入者)全員を対象とした確認」は過剰では、とも受け止められるが、関係行政担当者はどう考えているのか。
ある国税関係者は、具体的な取り組みは各業界、業者が検討するものだとしたうえで、個人的な感想として、
「自分は成人だと見れば分かるだろう、と怒る気持ちも理解できますが...」
としたうえで、社会のシステムの問題として、本当は19歳以下なのに「見れば20歳以上だと分かるだろう、だから年齢確認には応じない」という「ゴネ得」をする若者が出ないように、
「20歳未満の若者の飲酒防止のために、システムとしての年齢確認に協力してやろう、という気持ちで接してもらえれば」
と話していた。