様々なテーマが議論される臨時国会、最もわかりやすい形で国民生活に影響が出そうなのが消費税の問題だ。そんな中、増税の必要性を認めながらも、今の政府の方針、とりわけ軽減税率を批判しているのが国民民主党の玉木雄一郎代表だ。
2018年10月29日の代表質問では、激しい政権批判を展開する一方で「改革中道政党」として「新しい解決策や政策をいくつか提案」を行うなど独自の立ち位置も示した。それでも政党支持率は1%未満と低迷が続く。「永田町のユーチューバー」にも取り組む情報発信のあり方を含めて、今後の見通しを聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)
軽減税率は「声の大きい業界団体だけ安くなる」
―― そもそも消費税は、2012年の民主党・野田政権で結ばれた(民主・自民・公明による)「3党合意」で10%への引き上げが決まりました。その後2回にわたって延期されましたが、安倍内閣は19年10月に引き上げるとしています。消費税は上げるべきでしょうか。
玉木:3党合意をしたときの理念というのは、これから未曽有の高齢化に入ってくるので、どうしても年金・医療・介護のデザインが必要で、そのための財源のひとつとして消費税が重要だ、というものです。負担と給付の関係を一緒に考えていくという(社会保障と)一体改革の理念は大事だと思いますね。給付するためには財源が必要だから、その財源できちんと給付をしていくと。私達は消費税で増大する社会保障費を賄う考えは基本的には賛成です。ですが、税金は誰にとっても嫌なものなので、税負担を国民にお願いする時は環境整備が大事だと思います。つまり、国民の皆さんが納得する環境をいかに作るか。増税をお願いするのであれば身を削ろう、と。
―― それが議員定数の問題ですね。野田佳彦首相(当時)が衆院解散を表明する12年11月の党首討論で、野党だった自民党の安倍晋三総裁(当時)に対して衆院の定数削減を求め、安倍氏がそれに応じると表明した経緯があります。
玉木: それをやるからと解散総選挙をして安倍政権ができたわけですよね。そうしたらなんと参院は増やす法案がでてきて、それはさすがにもう約束破りがひどすぎるんじゃないか、というのがひとつ。環境整備という面では無駄遣いをなくすことが重要です。実際は、トランプさん(米大統領)に言われて何千億円も軍事関連機器を買ったりしている。その中で、本当に税金が国民のために使われているのかという実感を持てないでいます。そんな中、負担増だと言っても、とても納得が得られる状態には至っていない。特に、一番の問題は軽減税率(複数税率)です。結論から言うと絶対やめた方がいい。軽減税率を入れるなら増税をしないほうがいいと思います。一番問題なのは不公平だという点です。声の大きい業界団体だけ安くなって、政治力のない企業に適用されないのはおかしい。軽減税率が適用されなかった業界の商品は売れなくなるので陳情合戦になりますが、適用範囲がよくわからない基準で決められたりする。
「新聞業界も普段あれだけ立派なことをいうのに...」
―― 新聞への軽減税率も問題になっています。新聞業界はロビー活動が非常にお上手で、声も大きかったのでしょう。
玉木: 宅配の新聞だけ軽減税率で、まったく同じ紙面の新聞を駅やコンビニ、電子版で見ると10%。日経新聞が最近キャンペーンをやっていましたが、宅配の新聞と電子版セットで頼んだら一体どっちなんでしょう。そこに頭を使うことが無駄です。
―― 10月29日の代表質問でも「公平性のかけらもないし、業界と安倍政権との癒着を疑わざるを得ない」と指摘していましたが、朝日新聞が詳報で紹介した以外は「黙殺」状態でした。玉木代表は、ツイッターで「一社として、私が指摘した、新聞へ軽減税率を適用する不公平を書いていない」と怒っていましたが、朝日が書いていることを指摘されて訂正しました。
玉木: あまりに小さくて発見できませんでした(笑)。新聞業界も普段あれだけ立派なことをいうのに、自分のことは何も話さない。まあ、「よう言うわ」って感じですよ。
―― 軽減税率導入を主張する人は、海外の導入事例も根拠にしています。
玉木: 欧米、韓国の調査もしましたが、等しく言われるのは「Don't follow us」(追随するな)ということです。せっかく単一税率でシンプルにやってるんだったら絶対維持した方がいい、と。経済開発協力機構(OECD)も、複数税率の非効率性を危惧して「やめた方がいい」と勧告しています。そのやめろと言われている制度を今から導入するのは愚の骨頂です。
―― 軽減税率が消費税の逆進性を緩和する、という議論もあります。
玉木: 消費税が低所得者に対して厳しい面があるのは確かです。そうであれば、低所得者に限定して年金を上乗せするとか所得税を安くするとか...。真に助けが必要な人に回りますよね。軽減税率導入には1兆円予算が必要で、誰に還付されるかというと、ほとんどが高額所得者なんです。消費税の必要性は分かりますが、軽減税率はマイナスが多いことは確実です。
また延期で「衆院」「参院」「国民投票」の「トリプル選」も...?
―― クレジット決済で2%還元したり、2万5000円分の商品券を2万円で売り出したりする案も検討されています。
玉木:これでキャッシュレス社会を目指す、というのがよく分からなくて。確かに私もキャッシュレス論者ですが、海外なんかを見てるとクレジットカードのキャッシュレス化じゃないんですよ。「Alipay」や「WeChat Pay」が普及したのは、フィンテックを活用して決済コストを下げたからですが、既存のクレジット会社が得をするようなやり方をしているとすれば、また業界の意見を聞いてやってるんじゃないかと疑わざるを得ません。制度を複雑怪奇にしていくぐらいなら、10%で単一税率にして、低所得者には上がった分だけお返しすれば良い。クレジットカードだと、低所得者にも高所得者にもどちらにも還元されます。どちらかというと、クレジットカードで買い物をするのは所得の高い階層が多い。安倍政権がやっているのは所得が高い人を優遇するような政策ばっかりですよ。せっかく財政再建も含めてやろうという消費税の話が、かえってバラマキを誘発しています。税金の3大原則は「公平」「中立」「簡素」。これを満たすのであれば賛成ですが、現在の形では将来大きな禍根を残すと思います。
―― 今取りざたされている増税案はきわめて複雑で実現性が不透明な上、安倍政権は「リーマン・ショック級の出来事」が再び起きれば、増税をさらに延期する可能性に含みを残しています。
玉木: 3度目(の延期)はあると思いますね。2019年になって「やっぱり消費税上げません」と。また「新しい判断」とか「米中の貿易戦争が厳しくて世界経済に不安があるからやめます」とか言って...。さらに、「大きな判断と変更」だから衆院解散・総選挙をして、夏の参院選はダブル選でやります、それで憲法改正も国民投票もぶつけますという、「トリプル」でやってくる可能性もあると思いますね。
―― これから半年間、永田町の住人は疑心暗鬼で過ごさないといけません。
玉木: 増税の先送りを訴えて選挙するなんてね、邪道ですよ。(自民・公明が政権に返り咲いた12年以降)国政選挙で何連勝もしているのは、野田総理(当時)が決めた消費増税をやらない、ということで票を集めて政権を維持してきているわけだから...。野田佳彦さんの銅像を作って自民党本部に立てておいてもらいたいですね。
自分への激励電話が「立憲」にかかってくる
―― 足元の状況をみると、支持率が伸びません。18年10月のNHKの世論調査を見ると、同じ民進党からできた政党でも、立憲民主は6.1%なのに対して国民民主は0.8%。なかなか1%を超えられません。この原因をどう分析していますか。
玉木: まず、国民の多くは所属議員が立憲民主党なのか、国民民主党なのか区別がついていないと思うんですね。「野党が頑張っている」となると、最初に立憲を連想するかもしれない。実は国民民主党の現職国会議員がいる選挙区で世論調査をすると5~6%、高いところで8~9%の支持率が出るんですね。大型国政選挙を1回もやっていないし、国民民主党が存在していること自体がまだ国民のなかには知られていない。19年夏の参院選、4月の地方自治体選に向かって一生懸命活動を展開し、まず議員と所属政党の顔を一致させるというようなことを含めてやっていかないといけないと思います。非常に私はいい政党ができて、私たちの考え方を訴えていけば、1番多くの国民に響く政党ではないかなと思っています。代表質問をした後、かなり多くの励ましと問い合わせを一般の方からもいただきました。「初めてこんな政党があることを知りました」という声もあったので、もっとアピールしていくべきだと思いますね。
―― 党名が頻繁に変わるので、有名な議員の名前と所属政党がひも付いていないのが低支持率の一因、だということですか。
玉木:それはあります。結党当時の18年5月の衆院予算委員会で質問して、結構麻生さん(麻生太郎財務相)とかをやりこめましたが、「玉木さんいい質問だった」という激励の電話が「立憲」民主党に入っていました。当時の私でさえ立憲民主党の人だと認識されてたので、政党名の浸透はそう簡単ではないと思いますけどね。いい仲間といい政策といい政党だという自負はありますから、訴えていけば必ず支持が広がるし、少し支持率の低下も底を打って、じわじわ(支持が)広がっているなという実感はあります。
「永田町のユーチューバー」に、16歳から届いたメール
―― 選挙を含めて露出の機会を増やすことが支持率アップにつながる、ということでしょうか。PRといえば、ユーチューブに「たまきチャンネル」を開設しました。最近公開された国会議事堂の紹介動画では、衆院本会議場の出入り口の脇にある「酸素ボックス」など、マニアックなものもありました。
玉木:あれはね、マニアックだったでしょ(笑)、私も知らなかった(笑)。実は昨日(10月31日)、あの酸素ボックスの動画を見たという兵庫県の16歳の高校生からメールがありました(スマホを見ながらメールを読み上げる)。ぜひそういう層に、丁寧にアプローチしていきたいなと思っているんですね。これはね、励みになりました。本当に。
「元々、(著名ユーチューバーの)KAZUYAさんの動画や『虎ノ門ニュース』などの視聴者だったので結構な自民党信者でした。そういうのを見て、中学校時代は過激なリツイートをしては、学校からよく指導を受けていました。なので、高校に入っていろいろな思想とふれあい、自分の政治信条をしっかりと方向づけようと思っていたのですが、他の政党を見ていると批判ばかりで、建設的なことを言っている政党がなかなか見つけられませんでした。そんな中に『おすすめ欄』にたまたま出てきた『たまきチャンネル』の動画を見て、初めて与党以外の議員でいいことをおっしゃってるなと思いました。また、もともと国会議員への憧れはあったのですが、玉木さんの国会紹介の動画を拝見させていただき、議員という仕事への真摯な姿やテレビでは報道されない面白い一面に、やはり自分はこの道を進みたいと思うようになりました」
―― 政治系の動画が「ネトウヨ」への入り口になる人もいますが、これは驚きですね。
玉木: 予算委員会で質問して総理を怒らせて、それが朝日新聞と報道ステーションに取り上げられても多分、16歳のそういう子はメール送ってこないんですよ。そのルートで伝わる人は伝わると思いますが、違うチャンネルも必要です。潜在的に「政治って大事だし必要だよね」と思っているところに届けることは政治の側がもっともっと工夫してやっていかないとだめだと思います。だから「国民民主党ってなんなの」って言われたら、一言でいうと「新しい答えを作る政党」なんですよ。右も左も古くさくて、どちらかというとその新しい答えを作っていく政治集団。とにかく時代も大きく変化しているし、古い道具で何かやろうっていうんじゃなくて、新しいソリューション、新しいアンサーをどんどん作っていくのが私たちだというのが自分自身のアイデンティティでもあるし、そういうことでがちっとまとまった政治集団に育てていきたいなと思っています。
―― 9月の代表選では、「対決路線」「対案路線」といった言葉で対立軸を語る向きもありました。先日の代表質問では「改革中道政党」「新しい解決策や政策をいくつか提案」といった言葉があったことを考えると、ステレオタイプな言い方になってしまいますが、どちらかと言えば「対案路線」に進むということでしょうか。
玉木: まさにその「対決なんですか、解決なんですか、与党にすり寄るんですか、どうなんですか」という問われ方自体が、もう私からすれば古い政治の問題設定の仕方で、全く関心ありません。ただ1つだけ私が言うのは「自民党にとって代わって政権取りたい。そのためにありとあらゆる手段と武器を使おう」ということです。取って代わろうと思っているんだから、もともと「対決」なわけです。ただ、国民の皆さんには、先ほどの16歳の高校生にみられるように、「なんでも反対してる人を自民党に代わって政権を担わせていいのか」と(いう声もある)。本当に取って代わろうと思ったら、自民党より魅力的な党になるしかない。だから私はおかしいところは徹底的に突きます。代表質問をやったときの枝野(幸男)さんと私のどっちが強く安倍さんと向き合ってたかというと、私が弱かったは思わないはずです。相当厳しいところは厳しく言い、他方で(日米地位協定、北方領土などの問題で)「なんでこれやれないの、こうやったら上手くできるじゃないの」と、ばしばしやったわけですよ。対決もするし解決もするんだけど、「解決で対決」をするんですよ。
北方領土問題「踏み込んだ」理由
―― 5月の党首討論では、ほとんどの野党が「もりかけ」を追及する中で、玉木さんは北方領土問題など独自路線で、最後に安倍首相が握手しに来たのは印象的でした。
玉木:あれはあんまり言えないんだけど...。総理は我々を(野党と与党の中間の)「ゆ党」路線に印象づけるために来た、とよく言われますが、実は総理が何を言ったかというと、日ロのことをささやきに来たんです。その時々のトピックを取り上げるのも良いのですが、特に党首討論というトップ同士が議論する機会なので、一番根っこの国益の議論を、しかも実は安倍外交は半分行き詰っていると思っていますので、そこをギリギリと突いたわけです。そうしたら、やっぱりある意味ヒットしたんですよ、総理には。だから「それはやばい」と思ったのか、痛いところを突かれたなと思ったのか、まあ若干言い訳をしなきゃいけない感じで来たんですよ、実はね。
―― 先日の代表質問でも日ロ関係を取り上げ、「2島の先行引き渡しを、4島返還の突破口として実現する」可能性に言及しました。
玉木: かなり政治家として踏み込んだことを自覚しながら言っています。4島返還はもちろん、日本がずっと維持してきた方針で、苦労して「国後択捉にも領土問題がある」と認めさせながらここまで来たというのは先人の知恵です。ただ、もう元島民の6割が亡くなって平均年齢83歳という中で、原則論の4島だけにこだわって物事が本当に解決するのか。そのなかで、経済共同活動だって金だけとられて終わりじゃないか、経済活動すればするほど実効支配を認める、というようなことになったら取り返しがつかない。そういう中で、(平和条約締結後に当時のソ連が歯舞、色丹を日本に引き渡すとした1956年の)日ソ共同宣言の原点にひとつ戻って、それこそ「新たなアプローチを超える新たなアプローチ」を、そろそろ模索すべきではないか、ということを総理に提案したわけです。
「ヌエ」でも「万年野党」でもなく
―― 先ほど「ゆ党」という言葉が出ました。主に日本維新の会について表現する言葉で、「対案路線」と共通する部分があるように思えて、必ずしも悪いとは感じませんが、「ゆ党」と呼ばれるのは嫌なんですか?
玉木:これもマスコミのレッテル貼りですから...。そもそも内閣不信任案に賛成したり政府が出す予算案に反対したりしている時点で(国民民主は)立派な野党ですから。つまり、維新みたいに予算案に賛成したりね、不信任案に反対したりすると、まさにそれは「あんたなに?」みたいな感じですが、我々はあくまで自民党に代わるもう一つの政権を樹立したい。私なんか、そのために役所も辞めてやっているわけだから、万年野党やる気はないわけですから。だから常に自民党政権より国民にとってよりよい政策ができないかな、と思いながら毎日うんうん頭をひねっているわけだから、そこは維新さんの、なんだかよく分からないヌエのような存在とは違いますよ。だから、我々は野党です。ただ、しっかりと議論する野党だし、万年野党で「とにかく反対」ばかりではなく、常に自分が政権に取って代わる、そして取って代わったときには現実的な政策をすぐにでもできる準備をしておこうという思いで、政権に向き合っているということですね。
―― 政策をアピールすることは重要ですが、選挙では戦術も重要です。19年夏の参院選では野党共闘がカギになります。個別の選挙区で言えば、大阪選挙区(改選数4)では共産党の辰巳孝太郎氏が再選を目指す一方で、立憲民主党は「目玉候補」として弁護士の亀石倫子(みちこ)氏を擁立します。元々は旧民主系が弱い地域で、野党同士で競合する可能性も指摘されています。国民民主としては、こういった注目区に候補を擁立する方針ですか。
玉木:原則、複数区は全部立てます。そこ(野党間の競合の可能性)はね、党が違うから、複数区は切磋琢磨するということでしょう。1人区はできるだけ一本化していく。これが基本方針ですね。立憲さんも同じだと思いますから。
―― その1人区ですが、共産党の小池晃書記局長が4野党1会派に「真剣な協議」を申し入れたのに対して、立憲・枝野氏は政党間の話し合いに否定的です。どのように候補者調整に臨みますか。
玉木:私は前回の参院選で香川県で共産党に譲った張本人ですから(編注:32ある1人区で、大半は共産党候補が立候補を断念する形で野党統一候補を擁立したが、香川のみ共産党公認候補が野党統一候補になった)、調整するところは、いろんな調整がこれからありうると思います。ただ大前提として、まだ全部の選挙区に立てきれていないんですよ。空白区をこんなに残して与党を喜ばせてはだめで、まずは各党それぞれ力を尽くしていい候補者を発掘する。仮に複数がだぶったときには様々な調整をしていく必要があると思いますが、一義的には地域で様々な調整のメカニズムができてるところもあるんですよね。国政の我々が国政の都合でバラバラになってしまいましたが、地方はもともと一緒だったりするから、そこでの選定や調整をまずは優先したいと思います。年内をメドに立て切らないといけないと思いますから、この2か月が勝負だと思っています。
玉木雄一郎さん プロフィール
たまき・ゆういちろう 1969年香川県生まれ。東大法学部卒。93年旧大蔵省入省。
2009年の衆院選で初当選し、現在4期目。旧民進党幹事長代理、旧希望の党代表を経て18年9月から国民民主党代表。