名古屋市の東山動植物園で飼育されているシンリンオオカミに、ツイッター上で注目が集まっている。厳密には、その飼育スペースの看板に描かれた「絵」だ。
といっても、見るからに美麗であるという類の絵ではなく、むしろ極めてシンプルなタッチで、そのシンリンオオカミは表現されている。これが逆に「絶妙」「和む」といった反響を呼んでいる。J-CASTニュースは、絵を描いた同園の飼育員に話を聞いた。
「オオカミの絵が、たまらなかった」
「今日東山動物園行ってきたんだけど、シンリンオオカミ担当飼育員さんの描いたオオカミの絵が、たまらなかったので、皆様どうか見てください」
ツイッターユーザーの「ゆき」(@yukiassnowww)さんが2018年10月28日に投稿したのは、シンリンオオカミとその看板を収めた1枚の写真だ。
看板には、漢字にふりがなを付けながら「体調管理のため オオカミ達が室内でみえにくい時があります。ごめんなさい」とのメッセージがあり、その左下に小さく、シンリンオオカミのイラストが描かれていた。デザインは至ってシンプルだ。両耳だけを突起させた一筆書きできる輪郭に、2つの点で目、横棒で口がある。体は顔から伸びる楕円で描かれ、しっぽと4本の足はちょんちょんと1本線でそれぞれ生えている。足元には岩場が、これまた1本の弧で描いてある。
この絵が大きな注目を集めることになった。投稿には30日までに1万件近いリツイートと2万4000件超の「いいね」がついている。反響のコメントを見ると、「画伯」「かわいい」といったもののほか、「Tシャツにしたい」「なんか和む」といった声が見られ、シンプルがゆえにマスコット的な要素を感じるユーザーもいるのかもしれない。また、「絶妙な感じのヘタさ加減が素晴らしいと思いました 実物見てたら思わずふふっ♪てなりそうですね」と、実物とのギャップの大きさに心動かされたであろうユーザーもいた。
そんなシンリンオオカミの絵、どんな思いで描かれたのか。作画した東山動植物園の担当飼育員・片岡裕貴(かたおか・ひろき)さんは30日、J-CASTニュースの取材に応じ、今回話題を集めていることに笑みをこぼして「本当にコワイ世の中ですね」と、思ってもみなかったというように率直な感想を述べる。
「近くで見るととても愛らしいです」
描いたのは18年の夏。日本は酷暑となり、北米大陸が原産のシンリンオオカミにとって体調が危ぶまれた。「避暑のため屋内と屋外を自由に行き来できるようにしていたので、ご来園のみなさまに見えづらいタイミングがある、という看板を出す必要がありました」という。そこで絵も描いた。
「来園客に理解を求める内容だったため、文字だけではちょっと素っ気ないかと思い、絵をそっと添えさせてもらいました。3秒くらいでササッと、何気なく描いたという感じですかね。看板を見やすくする、『句読点』みたいなものです」
画風は特に「ねらった」わけでもない。「絵の技術なんて全くないものですから、これが僕のマックスです。絵心がないと言われれば...それに尽きますかね」とこぼす。
ただ、イメージとしては「ポップでキャッチーな感じにはしたかったです」と考えていた。それは、動物に対する深い理解と愛情がバックにあるようだ。
「オオカミと聞くと『恐ろしい』というイメージもあると思いますが、近くで見るととても愛らしいです。虫なんかも食べますし、一頭一頭性格も違います。ビクビクしているオオカミもいて、見ていただくといろんな表情をするのが分かると思います。意外に可愛いんですよね」
これまで片岡さんが同園で描いた絵は5点ほどあるといい、今もいくつか園内に掲示されている。かつて鳥類担当だったころには、アカコンゴウインコの「赤岡(あかおか)さん」というキャラクターを考案してイラストを描き、園のブログやYouTubeチャンネルにも頻繁に登場させていた。当時からの経験として「動物の魅力を伝えたい時は、看板で真面目なことを真面目に表してもダメだなという印象を持っていましたので、真面目にふざける、というような考えはありますね」と話しており、それが今も生かされているようだ。