「神」に等しい存在
記者がスポーツ紙で大相撲を担当していた1997年の冬、モンゴル人のノルディックスキーの選手が来日した。
日本で頼る人物がいなかったこの選手は、成田空港に立ち降りるとすぐさまタクシー乗り場へ向かった。行き先は旭鷲山のいる大島部屋だった。
モンゴルと日本の紙幣価値の違いを知らなかったのか、この選手の所持金はわずか数千円だった。成田から墨田区の大島部屋まで2万円を超えるタクシー代を持ち合わせていなかった。
まったく面識がなく、見ず知らずの同胞を旭鷲山は快く出迎え、タクシー代を支払うと、この選手に新しいスキー板をプレゼントした。このエピソードはモンゴルでも大きく報じられたという。
その旭鷲山さえも届かなかったのが横綱である。大相撲ファンに限らず、モンゴル人にとって横綱はもはや「神」に等しい存在である。日本ではヒールだった元横綱朝青龍も、モンゴルでは絶大なる人気を誇り、国会議員となり、モンゴル有数の実業家としても知られる。
このような背景から、平幕力士が横綱を相手取って訴訟を起こすこと自体、事実関係はどうあれ非難されるべきことなのかもしれない。