「投票するなよ」、「私たちはいつも投票に行くけど、君たちは行かないよね」
白人の高齢者男女が入れ替わり立ち替わり若者たちに、動画でこう語りかけていく。
米国の現トランプ政権への強い危機感から、民主党支持者らが若者たちの投票喚起に力を入れるなか、高齢者が若者を挑発する異色のキャンペーンが話題になった。
民主党支持団体が制作
前回の記事「低投票率の中間選挙を左右する若者」(10月21日公開)で触れたように、若い層は比較的、リベラルな人が多いが、政治に関心が薄くて投票率が低い。世論調査によると、ミレニアル世代(現在の22-37歳)でトランプ大統領の初年の業績を評価した人は27%と、より年齢の高い他世代と比べると極めて低い。一方、オバマ大統領ではミレニアル世代の64%が支持と、群を抜いて高かった。しかし、過去4回の中間選挙で、18-24歳の投票率はわずか20%だ。
この異色の動画は、民主党支持キャンペーンの一環として、急進的な非営利団体「アクロニム(Acronym)」が、全国規模で若者の有権者登録を促すために制作したものだ。携帯電話やタブレット用に、若者の関心を引きそうな内容で短い作品に仕上げている。
「トランプ、最高だよ」
広告に登場するのは、トランプ大統領支持者の典型と言わんばかりに皆、高齢の白人男女だ。自分たちの主張とは逆の発言を繰り返すことで、若者を挑発する。例えば、こんな具合だ。
「投票に行くなよ」、「現状のままで、何の問題もないんだから」 、「トランプ、最高だよ」
「気候変動ですって? 知ったことじゃないわ。私はもう死ぬんだもの」
「そりゃ、学校銃撃事件は悲しいことよ」、「でも私が学校に行ってたのは、もう50年間も前の話」
「どの命が大切か、もうわけがわかんなくなっちゃったわよ」(「黒人の命も大切だ(Black Lives Matter)」などの社会運動にかけて)
「天気がよかったら、よくあるくだらないデモにでも行ったらいいわ」
「あなたたち、この動画をフェイスブックでシェアするかもしれないわね」
「でも投票はしないよな」、「我々はいつも投票へ行く。君らは行かないよね」、「僕たちは行動の世代だからね」、「泣き言ばかり言っている人たちとは違うのよ」
この団体はキャンペーンのウエブサイトを立ち上げ、「我々の価値観のために戦おうとしない指導者らを、こきおろすパワーが我々にはあるのです」と投票を呼びかけた。
さらに、「友人5人が投票すると約束すれば、オリジナルTシャツをプレゼントする」と呼びかけている。
どこで投票するのかわからない人のために、最寄りの投票所を案内。また、投票の希望時間を入力すると、投票前夜にメールでリマインダーが送られる。
「若者と高齢者を分断するな」
若者も高齢者もおおむね、この動画の「皮肉」や「ユーモア」を好意的に受け止めているようだが、批判の声もある。
「我々高齢者こそ、公民権運動のために闘ってきたのに、バカにしないで」、「若者と高齢者、どちらも茶化した失礼な内容だ。これで投票する若者が増えると思っているのか」、「若者と高齢者を分断するな」、「若者にもトランプ支持者はいるし、トランプに批判的な高齢者も多い。ステレオタイプを助長している」
制作団体の代表は、「笑いやユーモアで、動画が注目されることが大事。たとえ批判があろうと、人々が感情的になるとしたら、成功と言えるのでは。これを見て投票に行く気になったという報告を多く受けている」と話す。
ツイッターやフェイスブックで、「若者よ、この動画を見て」と呼びかける人も少なくない。
この団体はほかにも、中間選挙に向けてスパイク・リーのいとこ、映画監督のマルコム・D・リーにコメディ動画三本の制作を依頼した。いずれも、「投票しないという白人を、黒人が警察に通報する」(通常なら黒人が白人に通報されることが多いというアイロニー)コメディで、「人種差別的」との批判も受けている。
リーは、「多くの人の自由が奪われている現状を何とかしないと。議員への電話や寄付はしてきたけれど、自分の才能を生かしてできることを探していた」という。
全米の大学や街角で盛んに若者に投票を呼びかけ、有権者登録すればコーヒーやMOCHI(日本の餅が今、アメリカで大人気なのだ)を無料で配るなどのサービスも行っている。若者の投票を促すことを学校の教職員に誓約させるサイトも誕生、必要であれば授業スケジュールの変更や欠席を認めることもその内容に含まれている。
中間選挙投票日まであと9日。成果は見られるのか、大いに注目される。(敬称略。随時掲載)