シリアで解放されたジャーナリストの安田純平さん(44)は、何度も拘束された経緯などから、ネット上などで激しいバッシングが続いている。
安田さんを疑問視する著名人のツイートも、大きな反響を呼んだが、報道現場にいるジャーナリストらが安田さん擁護の声を上げている。
「欧米のジャーナリストから、不思議な現象と言われる」
「欧米のジャーナリストたちと話すと、自己責任論という概念がそもそも理解できない、不思議な現象、と言われる」。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは2018年10月25日、ネット上で繰り返される「自己責任論」に対し、ツイッター上でこう指摘した。
イラクで行動を共にしたオランダ人ジャーナリストは、「バッシングに使うエネルギーを、ここで起きていることを知るために使ったらいい」と話したという。安田菜津紀さんは、「伝わらなければ、救援さえ集まらない現状がこの世界に無数にある」と取材の意義を訴え、ブログでも、自己責任論を取り上げて、「『自業自得』と同義で使われがちではないだろうか」と疑問を投げかけていた。
また、中国ルポライターの安田峰俊さんは、26日のツイートで、日本で自己責任論を唱える人たちについて、中国のウイグル人弾圧問題で「メディアが真実を報じない!」と訴える人たちと似ているとして、「彼らは誰がウイグルに取材に行くべきと思ってるのだろう」と皮肉った。これに対し、「日本にいてもわかることをまとめればいいじゃないですか!」とのリプライを複数受け、理解に苦しんだとも明かした。
安田純平さんについては、国の勧告を無視したと非難する声もネット上で出ているが、このことについても、ジャーナリストらから反論があった。
新聞労連も声明
元産経新聞記者の福島香織さんはツイッターで、「お上の判断に従って、取材しないというのはジャーナリズムではない」と述べ、「行くなと言われても行くジャーナリストを不快に感じて、体はって得た情報や成果も興味をもってもらえないのであれば、それはもうジャーナリズムは死ぬしかない」と嘆いた。
ジャーナリストの江川紹子さんは、「『自己責任』というのは、自分が受けた被害を誰のせいにもしないこと。それが充分すぎるほど分かっている人に対し、わーわー『自己責任』言い募っても無意味」だとツイートしたうえで、「それとは別に、国は自国民保護の責任があるから、国に責任がない事態でも、海外で困難な状況に陥った国民は助けなければならない」と指摘した。
マスメディアの団体からも、自己責任論を懸念する声が出ている。
新聞労連は10月25日、「安田純平さんの帰国を喜び合える社会を目指して」とする声明をホームページで発表し、「『反日』や『自己責任』という言葉が浴びせられている状況を見過ごすことができません」と訴えた。そして、「安田さんは困難な取材を積み重ねることによって、日本社会や国際社会に一つの判断材料を提供してきた」「今回の安田さんの解放には、民主主義社会の基盤となる『知る権利』を大切にするという価値が詰まっている」としている。
とはいえ、ニュースのコメント欄やツイッター上などでは、安田純平さんへの疑問や批判は止まないままだ。
「日本が止めてるんですよ?それを無視した人を擁護するって」「プロとして全く危機管理ができていない」「危険エリアに入ることを軽視しすぎてたと思う」といった声が次々に上がっている。さらに、「今回の開放にかかった費用を国に返済していくべき」「彼が帰国後、この件で利益を享受する事があってはいけない」といった意見もあった。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)