米国のトランプ大統領が大手メディアの報道を「フェイクニュース(偽ニュース、fake news)」と罵るのとは対照的に、英政府は「フェイクニュース」という用語の使用をやめる方針だ。
英下院の特別委員会「デジタル、文化、メディア、スポーツ委員会」が2018年7月にまとめた中間報告書で、「フェイクニュース」という言葉が「その意味するところがはっきりせず、意見が一致している定義がないままに流布されている」として、使用をやめるように求めたのに政府が応じた。代わりに議会や政府が用いようとしているのが「偽情報(disinformation)」という単語。これとは別に「誤情報(misinformation)」という概念もあり、このまま定着するかは未知数だ。
「純粋な間違いから外国による民主主義プロセスへの介入」まで
報告書を出した下院の委員会では、「フェイクニュース」が民主主義への脅威になっているとして、対策を研究している。報告書では、53項目にわたって政府に対して対策を勧告。最初に出てくる項目が「フェイクニュース」の用語に関するものだ。それによると、政府は「フェイクニュース」という用語の使用を拒否し、代わりに「偽情報」「誤情報」という単語の合意された定義を周知し、企業、団体、政府向けのガイドラインを策定すべきだとしている。
この勧告に対する英政府の答弁が10月23日付で英議会のウェブサイトで公開された。答弁では、「フェイクニュース」という用語について、
「純粋な間違いから外国による民主主義プロセスへの介入まで、幅広い嘘の情報がひとまとまりになった、きちんと定義されておらず誤解を招く用語」
だとして、報告書の指摘に同意した。この問題に取り組む数か月間、英政府としても「フェイクニュース」の用語の使用をやめ、代わりに「偽情報」などと呼ぶように努めてきた、と説明している。
「目的」と「意図」があるかどうか
この過程で英政府が作った定義によると、「偽情報」は「害を与えたり、政治的、個人的、金銭的利益を得たりする目的で、人々をだましたり、判断を誤らせたりする意図をもって、意図的に嘘や操作された情報を作り出したり共有すること」。一方で、「誤情報」は、「不注意で嘘の情報を共有すること」とするにとどめた。目的と意図があるかがどうかが、大きな違いのようだ。
英政府の答弁では、
「偽情報が英国社会と、民主主義的価値に沿った国益に与える影響を減らしたい」
として、産学共同で偽情報の調査プロジェクトを進めていることなどを紹介している。
今回の英政府の答弁は、議会の「中間報告」に対するもの。最終報告は18年秋にまとまる予定で、偽情報対策をめぐる議論が進展しそうだ。
(J-CASTニュース 工藤博司)