白川方明・前日銀総裁の著書や、5年半ぶりに公の場にでた記者会見(2018年10月22日)での発言が話題になっている。著書『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』は700ページになるが、総裁当時などで日銀が公表したものからの引用が多く、突っ込みどころも満載である。
白川氏の著作や発言から、疑問になるのは、何のために金融政策をやっているのか、本人もきちんと理解していないのではないかという点だ。本コラムで指摘しているように、金融政策が雇用政策であるが、白川氏の著作や発言には雇用の話はまず出てこない。
インフレ目標2%の理由
しかも、著作では「インフレ目標2%の意味がわからない」という内容が書かれている。これはある意味で正直であるが、そういう人が中央銀行総裁だったとは空恐ろしいことだ。
インフレ目標2%の理由は、最低の失業率を目指しても、ある下限(経済学ではNAIRU、インフレを加速しない失業率という)以下にはならずに、インフレ率ばかり高くなってしまう。そうした下限の失業率(これは日本では2%台半ばから前半)を達成するために最小のインフレ率が2%程度になっているからだ。この意味で、インフレ目標は、中央銀行が失業率を下げたいために金融緩和をしすぎないような歯止め、逆にいえば、インフレ目標までは金融緩和が容認されるともいえる。このような基本中の基本がわからないで、日銀総裁をやるから、その成果は散々であった。
雇用の観点から、白川氏の日銀総裁時代を評価すると、失業率について就任時2008年4月は3.9%だったが、退任時の13年3月は4.1%であり、リーマンショック(08年9月)や東日本大震災(11年3月)があったのは不運であったが、その対応では及第点は与えられない。