プロ野球巨人の原辰徳新監督が2018年10月23日、都内で就任会見に臨んだ。3度目の監督に就任した原監督は、会見で4番打者の岡本和真内野手に対して異例の「禁煙令」を出すなど、早くも原色全開の船出となった。
第3次政権において「原点回帰」と「のびのび野球」を掲げた原監督が、V奪回の大きなカギを握る22歳の若き大砲にいきなり注文を付けた。
「まずタバコをやめることだろうね」
指揮官が公の場で個人の名を上げて禁煙を促すのは異例のこと。しかも巨人の監督就任の席での発言は影響力が大きく、裏返せば原監督が岡本に寄せる期待の高さであり、原監督もそれを見越しての発言だったのだろう。
タブー視され続けた日本球界の喫煙
かつて日本のプロ野球界では喫煙者が多く、ロッカールーム、ベンチ裏、ブルペンでの喫煙が容認されていた。ただ、選手が喫煙している事実をメディアが報じることはほとんどなく、ある意味タブー視されてきた。
プロ野球選手は、長らく日本の子供たちが将来なりたい職業の1位であり続け、夢を売る商売でもあった。プロ野球の喫煙者はこれを理解した上で、表立って喫煙する者は少なく、メディアもあえて報道してこなかったと考えられる。
球界の盟主を自負する巨人。しかも岡本は4番を担う将来の球界のスター候補だ。公の場で巨人の監督が巨人の4番打者の喫煙事実を公表するのは、相当の覚悟があってのことだろう。
日本プロ野球界における喫煙者は年を追うごとに減少している。一部の球場では喫煙ルームが設けられているケースもあるというが、基本的には全面禁煙となっている。
桑田氏が作った球界禁煙の流れ
球界にこの流れを作ったのが、元巨人の桑田真澄氏と言われている。
桑田氏は現役当時、ロッカールーム内での喫煙に我慢がならなかったという。ただ、桑田氏は一方的に禁煙を主張したのではなく、解決法として提案したのは分煙だった。
桑田氏の提案により、球団は移動の際に2台のバスを用意した。ロードの際には、喫煙者用と禁煙者用にバスを分煙して移動。他球団もこれにならって移動の際には2台のバスを使用することが定着した。
横浜DeNAベイスターズは2012年の球団発足時に、球場内の全面禁煙を打ち出した。DeNAはオフに医療の専門家を招いて選手向けのセミナーを開催するなど、選手へ禁煙を促してきた。
メジャーでは現在、喫煙者はほぼいないという。米国内での喫煙者が減少している影響もあるが、アスリートとしての自覚を持っているメジャーリーガーにおいて禁煙は常識である。かつてメジャーで見られた噛みたばこは、マイナーリーグでは禁止され、メジャーでも口にするものはほぼいないという。
メジャーでの禁煙のひとつのきっかけになったのは、1996年のある事がきっかけだったといわれる。
当時ドジャースに所属していたブレット・バトラー氏が扁桃腺ガンを告知され手術を受けた。バトラー氏は翌年復帰を果たしたものの、そのシーズン限りで現役を引退した。
これをきっかけとして、メジャーリーグで禁煙の動きが広がったという。MLB主導で春季キャンプに医療の専門家を招いて、禁煙の啓蒙活動を行い、喫煙が体に及ぼす影響を選手たちに伝えてきた。
このような経緯もあり、20年以上経った今、メジャーでの喫煙者はほぼいなくなった。ただ、ロッカーでは葉巻を吸うことは許さている球団が多く、優勝を決めた試合後など特別な日にキューバ産の高級葉巻を楽しむ選手がいるという。
日本球界において、喫煙の習慣のある選手が減少しているのは明らかな事実。原監督が岡本選手に求めた禁煙について、プロとして当然という声が多い中、プロ野球関係者の中には「本人が納得いく形で禁煙を勧めるのが大切。DeNAのように、球団が禁煙の啓蒙活動を行い、選手に理解を求めることがベストだと思う」と球団の姿勢を求める声もあった。