岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 低投票率の中間選挙を左右する若者

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   2018年11月6日の中間選挙に向けて、投票率を上げようと、全米でさまざまな取り組みが行われている。

   中間選挙は、大統領選の中間の年に行われる上下両院議員と州知事などの公選職の選挙だ。トランプ政権の国民による審判ともいえ、この結果が政権の今後を左右することになる。

   米国で大統領選挙の投票率は毎回、60%前後だが、11月の中間選挙の投票率は40%と低い。2014年の中間選挙では36%と、第2次大戦後最低だった。

  • 若者に投票を呼び掛けるネクトジェン・アメリカのトップページ
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「パタゴニア」は投票日を休業に

   世論調査によれば、選挙に関心があっても投票の過程がよくわからない、仕事や学校のスケジュールが合わない、といった理由をあげる人が多かった。

   投票したくても、投票所までの交通手段がない人も多い。タフツ大学の調査では、2016年の大統領選で18-29歳の有色人種の38%、白人の27%が、投票しなかった理由に交通手段を挙げている。

   全米のいくつかの都市では、公共交通機関を無料にする案が検討されている。サウスキャロライナ州のコロンビアでは、COMETというバスが選挙当日、無料になる。

   大手配車サービスの「リフト」と「ウーバー」は、非営利団体と提携し、交通手段がなくて投票に行けない人を、投票所まで無料、あるいは半額で送り届けると発表した。ウーバーは有権者が当日、アプリで投票所を検索できる投票所ボタンを開発した。

   アウトドア用品の製造・販売会社「パタゴニア」は、従業員が投票に行けるように、中間選挙の投票日には休業することに決めた。本社や配送、カスタマーサービスのセンター、さらに全米の店舗が閉まる。従業員が仕事を心配することなく国民の義務を果たせるようにと、ほかの企業にも休業を促している。

   同社の米国のウエブサイトに入ると、トップページは一面黒地で、大きく白文字で「Democracy requires showing up.(民主主義は姿を現すことを要求します)」が現れる。そのすぐ下に「Go vote」のボタンがあり、有権者登録サイトに誘導される。

   「パタゴニア」は環境問題に力を入れ、トランプ政権によるパリ協定離脱に反対を表明してきた。

18-24歳の投票率は20%

   テキサス州では民主党候補者らが10日間のバスツアーを企画。州内40ほどの町を巡ってイベントを行い、自分たちへの投票を促した。

   民主党の州知事候補のルーペ・バルデス氏は、「テキサスは『赤い州』ではなく、『投票しない州』なのです」と訴えている。

   民主党支持者らは現政権への強い危機感から、若者たちの投票喚起に力を入れている。若い層は比較的、リベラルな人が多いが、政治に関心が薄くて投票率が低いからだ。

   世論調査によると、ミレニアム世代(現在の22-37歳)でトランプ大統領の初年の業績を評価した人は27%と、より年齢の高い他世代と比べると極めて低かった。一方、オバマ大統領ではミレニアム世代が64%と、群を抜いて高かった。

   しかし、過去4回の中間選挙で、18-24歳の投票率はわずか20%。今年の世論調査でも18?34歳の若者の44%が「政治に関心が薄い」、「政治に関心がない」と答え、「中間選挙で必ず投票する」と回答した人は3割だった。

   「アメリカは今、かつてないほどに、君の声が必要なんだ(Now, more than ever, America needs your voice)」と訴えるのは、非営利の政治団体「ネクストジェン・アメリカ」だ。

   これまで環境問題などを中心に活動してきたが、今年は若者への投票の呼びかけに力を入れている。ネットやイベントで有権者登録や投票の案内をし、投票直前に投票所への行き方などのリマインダーを送る。

テイラーのインスタが若者を動かした理由

   ソーシャルネットワークでは「投票に行こう」と盛んに呼びかけが行われ、若者から強い支持のある著名人もこれに加わっている。

   カントリーポップの人気女性歌手のテイラー・スウィフトは2018年10月7日、沈黙を破り、自身のインスタグラムで1億1200万人のフォロワーに向けて、民主党支持を公表し、中間選挙での投票を呼びかけた。

   さらに性的指向や性、人種に基づく差別を厳しく非難、「すべての米国人の尊厳のために闘う意思がない人には投票できない」と訴えた。

   これまで政治への言及を頑なに避けてきたことで批判もされたテイラーが、突然、沈黙を破った。今やポップス寄りだが、保守的な白人層に人気があるカントリー音楽の出身だったため、ファンを失うリスクもあることから、投稿は注目を浴びた。

   テイラーは「自分自身と、この2年間に世界で起きたこと」で、今回の行動に踏み切ったという。直接、民主党支持を訴えるのではなく、人権問題として捉えたことが、多くの若者を動かした。

   テイラーの投稿後、2日間で24万人が有権者登録した。8月1か月分で5万7000人、9月で19万人と比較すると、影響力の大きさが伺える。10月21日現在、210万人以上がこの投稿に「いいね」を付けている。

   ニュージャージー州エリザベスに住むサンドラさん(26)は、「これまで政治に関心がなくて、投票も行ったことがなかったけれど、テイラーの発言を聞いて、投票しようと考え直した」と話す。

   こうした動きのなかで話題になったのが、高齢者が若者を挑発する異色のキャンペーンだ。 白人の高齢者男女が入れ替わり立ち替わり若者たちに、「投票するなよ」、「天気がよかったら、よくあるくだらないデモにでも行ったらいいわ」と語りかけていく。(この項続く。随時掲載)

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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