元プロボクシングの世界王者で、2020年東京五輪出場を目指す高山勝成選手が2018年10月16日、日本ボクシング連盟からアマチュア登録を認められたことを明かした。高山選手は昨年4月にプロを引退し五輪挑戦を表明。しかし、連盟はプロとアマチュアの統括組織が別で事業目的が異なるとの理由でアマチュア登録を認めなかった。
今年8月、助成金の不正流用などが発覚した山根明前会長が辞任。山根体制でアマチュア登録を認められなかった高山選手は、競技者登録を求めて日本スポーツ仲裁機構(JSAA)に仲裁申し立ての手続きをしていた。だが、反山根派で固められた新体制は一転、高山の登録を認めた。
世界のアマチュア選手にとっての五輪とは
2016年リオデジャネイロ五輪を直前に控えた同年6月、国際ボクシング協会(AIBA)がプロの五輪出場解禁を決定。五輪史上初めてプロ選手の参加が認められたリオ五輪には、2人の元世界王者を含む4人のプロ選手が出場した。
史上初めて門戸が開かれたにも関わらず、なぜプロから4人の選手しか五輪に参加しなかったのだろうか。日本においても現時点で東京五輪挑戦を表明している選手は高山選手ただ一人である。
一つの要因と考えられるのは、プロボクシングのシステムである。日本はジム制度が整っており、プロになるには日本ボクシングコミッション(JBC)がライセンスを発行するいずれかのジムに所属しなければならない。
この制度は日本独自のもので、世界では選手が個人的にマネージャーまたはプロモーターと契約しプロのリングに上がる。日本のようにプロになるためのプロテストは存在せず、プロ契約を結べば即、プロのリングに上がることが可能となる。
契約にあたって重視されるのがアマチュアでの実績だ。ボクシングの本場米国では、アマチュアはプロで高額の契約を結ぶためのひとつのステージに過ぎない。世界選手権、五輪でメダルを獲得し、自身の価値を高め、売り込むための手段の場なのである。
それゆえ、海外ではプロのリングで実績を残した選手がアマチュアのリングに戻ってくることはほとんどない。
プロがマラソンならアマは100m走
また、プロにとって大きなリスクとなるのが負傷だ。現在、アマチュアの試合ではプロ同様にヘッドギアを着用していない。そのためこれまでよりバッティングによるケガのリスクがより高くなっている。プロの選手生命にかかわってくるような負傷もありえるだけに、そのリスクを負ってまでリングに上がる選手は多くないだろう。
同じボクシングでもプロとアマチュアでは競技が異なるといわれるほど、その性質が異なることもプロが避ける要因である。
プロの世界戦は3分12ラウンドを戦う。一方のアマチュアは、どの大会だろうが3分3ラウンドだ。陸上競技に例えるならば、プロはマラソンでアマチュアは100メートル走に近いものがある。
プロでは36分間の中で決着を付ければよいが、アマチュアはわずか9分間で勝負が決まる。プロとアマチュアの大きな違いは判定基準にあり、相手にダメージを与えたパンチがポイントにつながるプロに対してアマチュアが求められるのは破壊力ではなく手数だ。いかに3分の間に相手の顔面、ボディーにパンチを打ち込めるかが重視される。
競技性の違いはリオ五輪で顕著に見られた。
日本で井岡一翔選手に勝利した実績を持つ元IBF世界フライ級王者アムナット・ルエンロン(タイ)は2回戦敗退。元WBA世界ミドル級王者で、現WBA世界ミドル級王者・村田諒太選手の挑戦を退けたことで知られるハッサン・ヌダム・ヌジカム(フランス)は1回戦で敗退し、準決勝進出がプロ選手の最高成績だった。
高山選手は、日本史上初めてWBA、WBC、WBO、IBFの世界4団体のベルトを巻いたが、アマチュアの実績はない。すでにプロを引退しているためアマチュア選手として東京五輪を目指すことになる。現在のところ、世界のトッププロで東京五輪の参加を表明するものはいない。