阪神は矢野燿大2軍監督が1軍の新監督に就任することを2018年10月15日、発表した。球団が13日に正式に監督就任の要請をしてからわずか2日間の異例のスピード就任。今季、17年ぶりの最下位に沈んだチームの再建を託された。
新監督が正式に決まり、球団は早くも新体制作りに着手した。複数の関係者によると、来季1軍ヘッドコーチとして、楽天・清水雅治外野守備走塁コーチを候補にリストアップ。1軍コーチとして、今中慎二氏、関本賢太郎氏の招へいも検討しているという。
星野イズムの継承者らで組閣
清水コーチと今中氏は、矢野監督の中日時代の同僚で、関本氏は阪神での戦友で、プライベートでの付き合いもある。この3人全員が故・星野仙一氏の指導を受けた経験を持つ「星野イズム」の継承者だ。
阪神の組閣に関しては監督の意向が強く反映されるため、新体制では矢野色が色濃く出そうだ。矢野監督が2軍監督時代、星野氏の教えでもある「超積極野球」を推進し、就任1年目で12年ぶりの日本一を達成した実績がある。
矢野監督にはもうひとつ、継承するべきものもある。それは金本監督がこの3年間、取り組んできた若手の育成である。自身も金本政権のもと、積極的に若手育成に取り組み、球団もまた金本監督の意志が引き継がれることを望んでいる。
「勝ちながら育てる」に野村克也氏警鐘
一方、金本監督が行ってきた若手育成法に関して、元阪神監督の野村克也氏が警鐘を鳴らす。
2018年10月14日放送の「虎バン」(朝日放送)で、野村氏は「勝ちながら育てる。とんでもない。常勝阪神でもないのに」と、金本監督の方針を真っ向から否定。
そしてさらに、「若手を起用してチームを変えていこうとしたんでしょうけど、若手を使えばいいというもんでもない。難しい阪神の監督は。経験を積ませて勝たせるのが正解でしょ。すべてが経験ですから。経験が一番の財産」と、持論を展開した。
野村氏は1999年から3年間、阪神で指揮を執り、3年連続最下位の暗黒時代を経験。ただ、この3年間、野村氏は自身が見込んだ若手を我慢して使い続け、経験を積ませた。その結果、野村氏が退任した2年後、野村氏が使い続けた若手が中心となり、チームは18年ぶりのリーグ優勝を果たした。
矢野監督も「野村チルドレン」のひとり。野村氏に正捕手として抜擢された1999年、100試合以上の出場を果たしたシーズンで初めて3割以上(3割4厘)の打率をマークした。
「ベンチで試合を見て、投手が首を振ったあとの配球の傾向などを覚える。そうすることで2割5分の選手が3割台に打率を引き上げることができる」
野村氏から受けた投手の配球を研究することで3割超えを実現させ、正捕手の座をつかんだ。
矢野監督は野村氏の指摘をどう受け取るのか。球団との正式な契約は明らかになっていないが、矢野監督の若さ、実績、そして今回、監督に要請をした背景を踏まえれば長期的な契約となることが予想される。
矢野監督は野村氏の提言通り、「脱金本路線」で若手育成に取り掛かるのか。野村氏が蒔いた種が花を咲かせたのは5年後だった。矢野監督にはまだ多くの時間が残されている。