「特区」は開店休業状態
この構想はあと少しで実現するところだった。2009年にはマダガスカルは「チャーターシティ」に賛同し推進したが、その後のクーデターで政権が崩壊した。11年、中米のホンジュラスは憲法の一部の改正手続きを行い、この国家内人工都市国家の建設を可能にするまでになった。しかし、この構想は「新植民地主義」だという批判が起こり、結局頓挫した。
このローマー氏のアイディアは、開発途上国に対して先進国からの投資で貧困から脱しようというものだ。この点から「新植民地主義」というありがたくないレッテルを張られるのだが、日本にも是非導入を考えてみたくなる。今の日本の「特区」の惨状は目を覆いたくなる。疑惑、疑惑と叫んでいるだけで、加計学園を1年半以上も一部マスコミは社会的に糾弾してきた。その結果はいまだに「加計学園に疑惑」報道である。岩盤規制を擁護する側には、政治献金が動いていた事実があり、規制の存続・強化との関係で有力政治家の名前も挙がった。そうした動きもない加計学園に悪魔の証明を求めるのはどうなのか。ついでにいえば、文科省の汚職は刑事立件されているが、野党議員が関与していたことは「疑惑」どころではないが、その追及はないとのアンバランスだ。いずれにしても、このくだらない騒動のおかげで、「特区」は開店休業になっていて、日本の将来に大きな国損である。
ローマー氏自身は、必ずしも日本経済を評価していない。日本では、自由と競争がないので、新規企業数が少ないと批判している。いうなれば、ローマー氏から見れば、日本も開発途上国並なのだ。
さすがに、日本の場合、外国からの資本導入は必要ない。必要なのは、新しい都市化や新規企業を阻む規制を一から取っ払うことで、それなら発展の可能性があるのだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「マスコミと官僚の小ウソが日本を滅ぼす」(産経新聞出版)など。