2018年は、リーマン・ショックが発生してから10年になる。中国メディアでは「金融危機10年周期説」を取り上げ、1998年はアジア金融危機、2008年にはアメリカによる世界金融危機、そしていま2018年に至って「危機への警戒が必要だ」などと特集していて、経済には悲観的な雰囲気が充満している。
ただし、9月まで公表された中国の各種データから見てみると、中米貿易戦争の影響がまだ表面化するまえということもあり、経済指標は悲観と楽観が混在している状況だ。
大幅に減った自動車、エアコン販売台数
最初に、数値が大幅に下落している指標は何か。
注目されるのは自動車の販売台数だろう。「全国乗用車市場信息聨席会(乗聨会)」が明らかにした8月期における広義の乗用車販売台数は昨年同期比7.4%減、「中国汽車(自動車)工業協会(CAAM)」が発表した自動車販売台数でも前年同月比3.8%減だった。7月は4.0%減だった。8月に限って見れば、過去10年間における乗用車販売台数の落ち込みは2008年、2011年、2015年の3回発生し、今年の乗聨会の下落幅は2008年の金融危機の際の数字を上まわっている。
エアコンの販売台数もマイナスに転じた。今年7月期は前年同期比2.6%減で、春節月以外でマイナス成長になったのは2年ぶりだ。これまで2005年、2008年、2011年、2015年の4回、マイナスに転じている。自動車とエアコンは重要な消費財で、それらの数値の下落は消費全体の状況を反映している。8月期の社会消費財小売総額の伸びは9%で、物価要因を差し引いた実質伸び率は6.6%と1995年以来最低の数値を記録した。8月期における固定資産投資の伸びは5.5%で、1996年以来最低であり、投資関連では、大型トラックの販売がマイナス23%で、2016年以来最低だった。
集積回路、消費はなお堅調だが...
一方、これ以外の経済統計では、8月期における多くの指標は依然として安定している。
たとえば、8月の発電量の伸びは前年同期比7.3%増と堅調だ。2008年の金融危機と2015年の景気後退期では、発電量はマイナス成長に陥った。中国の統計にはいろいろ不確実なデータがあるが、発電量で景気の具合を見る人が多い。電気はすべての業界で必要とされるので、その成長指標は実体経済のトレンドとシンクロしているとみられるからだ。
筆者は9月に日立建機、コベルコなど中国でショベルカーなどの建機を生産している企業を取材したが、いずれもフル稼働していた。建機市場では、8月期における販売伸び率は33%だった。
そのほか、鉄道貨物取扱量の伸び率は7.6%だった。これらの数値は固定資産投資と密接に関連した実体指標であり、2008年と2015年のマイナスに比べれば堅調といえる。
ハイエンド製造業と関わる2018年8カ月間の集積回路の生産高は前年同期比13.4%増であり、2015年のひとケタの成長率を上回っただけでなく、2008と2009年の大幅なマイナス成長とくらべれば、ずっと良いものだ。
さらに、非耐久消費財の伸び率は堅調だ。8月期は食品の小売りの伸びは9.3%、アパレルが7%、日用品が15.8%、石油小売りが19.6%で、加重平均は11.5%と、2008年と2015年の3.5%を大きく上回るっている。
サービス消費についても、今年8月期における映画収入は573億元と、前年同期比20%の伸びを示して順調だった。2018年7カ月間に見るモバイル・インターネットの接続総容量も329億GBで、前年同期比202%増えた。
住宅販売鈍化と貿易戦争というリスク
しかし、経済の変調を示す指標も出始めている。
まず、火力発電の石炭消費量がマイナスに転じた。2018年8月期における発電量は前年同期比7.3%増だったが、国内六大火力発電所における8月の石炭消費量がマイナス4.1%と減少に転じ、9月上半期はそれがさらにマイナス8.7%となっている。これは、将来的に発電量の伸びが大幅に下落する可能性があることが危惧される。
次に、不動産販売が下落している。8月期における全国不動産販売伸び率は前年同期の9.9%から2.4%に下落した。現状ではプラス成長を維持しているが、最初の自家用住宅購入に適用される8月の全国住宅ローンの利率は5.69%で基準値の1.16倍となり、中長期ローンの伸び率は2017年2月に最高を記録した32%から今年8月には18%に落ちている。これは、今後の不動産販売が下降圧力を受けることを意味しよう。
不動産販売の伸び率がマイナスに転じれば、それと密接な関係にある家電、家具などの消費も衝撃を受けることは必至である。8月は輸出の伸び率も9.8%と高い数値を示し、2008年と2009年のマイナス成長から大きく改善されている。これは、中米貿易戦争の先行きが不透明な状況のなかで、少なからぬ企業が巨額の関税が課される前に前倒しの輸出を実施した結果であり、将来的には輸出伸び率が大幅に下落するリスクを抱えている。
(在北京ジャーナリスト 陳言)