医療現場でいいアイデアが浮かんでも薬や治療法として実ることは極めて珍しい。医師などの医療関係者は手続きや制度、複雑な法律にうとく、さらには多忙のためにあきらめざるを得ないことが多いからだ。
それを手助けする目的で神戸市と文部科学省が設立した機関「公益財団法人神戸医療産業都市推進機構の医療イノベーション推進センター」が15周年を迎え、2018年 9月29日、東京で記念シンポジウムを開いた。研究者や企業人らを前に、福島雅典センター長がこれまでのあゆみと展望を語った。
すでに実用化案件も
前身の臨床研究情報センターだった03年までは医師の臨床研究は少なく、医師主導臨床試験もなかった。それが18年 8月現在でセンター支援は 363件に、関連論文も 260件に増え、大きな医療イノベーションを創出した。
実用化第 1号として発生障害治療用のチタンブリッジがすでに市販され、承認申請中 1件、準備中 1件、臨床試験中 5件などが続いている。
福島センター長の思いがシンポジウムのタイトル「寝たきりゼロ 100歳現役社会実現に向けて」に込められている。とくに力を入れて支援したのは要介護からの脱出や目や耳などのコミニュケーション機能回復の技術だった。
シンポジウムではいくつかの再生医療の臨床研究報告も行われた。手術など従来の治療法では治らない重症下肢虚血は、 5年生存率ががん以下の40%という難病だ。同センター医療開発研究所の川本篤彦所長 (再生医学) は、患者にG-CSF(刺激因子)を 5日間注射し、骨髄から集めたCD34陽性細胞を下肢筋肉に移植する臨床試験で 1年後には 8割が改善することを確認した。米国での追試でも有効との結果が出ている。
骨折者の 5~10%は骨がくっつかない難治骨折患者だ。黒田良祐・神戸大学大学院教授 (整形外科) はやはりCD34陽性細胞の移植で再生することを見つけ、 5病院で医師主導試験を実施している。また、より簡便な関節軟骨細胞移植にも取り組んでいる。
本望修・札幌医大教授 (神経再生医療) は07年の福島センター長との「運命的な出会い」から未知の分野に乗り出すことになり、患者の骨髄間葉系幹細胞による脳梗塞、脊髄損傷治療の医師主導試験を実施中だ。
(医療ジャーナリスト・田辺功)