2020年東京五輪でボクシングが実施競技から除外される可能性が出てきた。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が2018年10月4日、韓国・平昌(ピョンチャン)で開かれた理事会後に明らかにした。IOCは、国際ボクシング協会(AIBA)が関わったとされる不可解な判定による八百長疑惑や統括団体のガバナンス(組織統治)を問題視し、AIBAがこれらをクリアにしなければ、実施競技からの除外は避けられそうにない。
事の始まりは2016年リオデジャネイロ五輪。不可解な判定が相次ぎ、審判の買収、八百長が疑われた。問題はこれに留まらず、2017年11月にAIBA関係者の金銭問題を隠匿したことを指摘された呉経国会長が辞任に追いやれた。
数々の問題を解決しないままAIBAは2018年1月にガフール・ラヒモフ副会長を会長代行に選出し、11月にモスクワで予定されているAIBA会長選ではラヒモフ氏の当選が確実視されている。
表の顔は実業家、裏の顔は...
このラヒモフ氏こそが、IOCが最も問題視する人物なのだ。ラヒモフ氏は選手として活躍した後、指導者となりウズベキスタンのボクシング協会入り。協会では要職を歴任し、中央アジアで権力を握ると、満を持して世界に進出。そして今年1月、ついに世界トップの座に就いた。
ウズベキスタンの実業家という表の顔を持つラヒモフ氏だが、あの山根明前会長も真っ青の裏の顔を持っている。ウズベキスタンの裏社会と深いつながりが疑われており、麻薬の密売に関連しているとの疑惑も。
2012年には、ロシアを拠点に活動する犯罪組織「ブラザーズ・サークル(Brothers' Circle)」に関連する人物としてアメリカ合衆国財務省から金融制裁を科された。「ブラザーズ・サークル」は、中央アジアを中心に非合法な取引をし、ヘロイン売買にも関与しているという。
また、リオデジャネイロ五輪においては審判買収の疑いをもたれている。ウズベキスタンはリオデジャネイロ五輪で金メダル3個を含む9個のメダルを獲得した。過去の実績を見ると、2008年北京五輪はメダルなしに終わり、2012年ロンドン五輪では銅メダル1個。飛躍的に伸びたメダルの数が、疑惑を招く一因となっている。
東京五輪ボクシング競技存続の大きなカギを握るラヒモフ氏だが、山根前会長とは蜜月関係にあるという。18年前、山根前会長の還暦祝いとしてラヒモフ氏が、ダイヤモンドを散りばめた時計をプレゼントした。
不正流用疑惑の助成金の返還のために、自身のロレックスの腕時計を売ったという山根前会長だったが、この時計は今でも愛用しており、このことがラヒモフ氏との関係性を物語っている。
山根氏らは「過去」だけど
日本のドンと世界のドン。ともに裏社会とのつながりを指摘されているが、なぜボクシング界はこのような人物が組織の中に存在するのだろうか。
ボクシングはアマ、プロ問わず、青少年の健全な育成を掲げ、人生の横道に逸れた若者らの矯正の場としても門戸を広げている。プロではかつて罪を犯したボクサーがチャンピオンになることも少なくなく、暗い過去を持つ者を受け入れる土壌がある。これは選手に限ったことではない。
その代表的な例に挙げられるのが、元世界統一ヘビー級王者のマイク・タイソン氏とプロモーターのドン・キング氏だ。タイソン氏は12歳まで51回の逮捕歴があり、少年院でボクシングを学んだ。その後、更生して史上最年少で世界のベルトを巻いた。
奇抜な髪形で有名なキング氏は、過去に違法賭博と殺人罪で刑務所に服役した過去を持つ。服役後、ボクシングのプロモーターとして、タイソン氏をはじめとする数々のボクサーを世に送り出し、世界のドン・キングとしてその名をはせた。
山根前会長に代わって日本ボクシング連盟の新会長に就任した内田貞信氏もまた逮捕歴を持っている。会長就任時に、詐欺、強要、恐喝で逮捕された過去を自ら明かした。
ただ、これはあくまでも過去に犯した過ちであり、山根前会長にしても過去に裏社会とのつながりがあったことを認めているが、現在は関係を断っている。だが、ラヒモフ氏に関して、IOCは裏社会のつながりは現在進行形であると認識している。
IOCは11月のAIBA会長選でラヒモフ氏が新会長に選出された場合、12月に東京で行われるIOC理事会で厳しい措置を取ることを明言している。