仮想通貨交換業者からの、また巨額の不正流出だ。テックビューロ(大阪市)は2018年9月20日、同社が運営する交換所「Zaif(ザイフ)」から仮想通貨約67億円相当(翌日に70億円相当に修正)が外部に流出したと発表した。
1月にはコインチェック(東京)で580億円分の仮想通貨が流出したばかり。業界挙げて信頼回復を図ろうとしているのに、朝山貴生・最高経営責任者(CEO)らは9月29日朝現在、記者会見も開いておらず、ホームページ上での一方的な発信にとどまっている。情報開示姿勢のまずさが、業界への不信感を増幅させている。
約70億円が不正送金された
発表によると、3連休前の9月14日17~19時ごろ、外部から不正アクセスがあった。インターネットに接続した状態で仮想通貨を保管する「ホットウォレット」から不正送金された。流出したのは、ビットコイン、モナコイン、ビットコインキャッシュの3種類。約70億円のうち、顧客の預かり資産は約45億円に上るという。17日にサーバー異常を検知し、翌18日にはハッキング被害が確認されたため、金融庁や捜査当局に報告・被害申告。ただ、ニュースリリースを出したのは20日未明だった。
「サーバー障害により停止中」「復旧に向け調査中」。公式ツイッターでこの問題を発信したのは17日だった。その後、「お客様の資産の安全を確認」「復旧については1~2営業日中に完了する予定」とツイートした。20日のリリースと食い違う部分があるし、そもそも不正アクセスから異常検知、そして発表までなぜ時間を要したのかなど、謎は多い。
テックビューロは20日、金融情報サービス会社フィスコのグループ企業から約50億円の金融支援を受け、フィスコ傘下に入ることを検討する基本契約を結んだとも発表。消失した顧客資産の補償はこの50億円を充てるとした。さらに情報システム開発をてがけるカイカからも技術支援を受ける。
一方、金融庁は怒り心頭だ。詳しい経緯の説明を求めたが、十分な回答を得られず、2018年3、6月に続く3度目の業務改善命令を25日に出し、詳しい原因の究明と再発防止策の策定・実行などを求めた。コインチェックは「みなし業者」だったが、テックビューロは登録業者。金融庁の監督のあり方も問われそうだ。テックビューロは27日、業務改善計画書を提出したと発表したが、ここでも詳しい中身は開示していない。
「ブロックチェーン技術自体に対するイメージも悪化し...」と懸念
テックビューロを率いる朝山氏はNEM財団の理事も務める。コインチェックでNEMが流出した時には、マスコミの取材にも応じ、消失したNEMの行方について解説。日本経済新聞などにも登場していた。ところが、今回、朝山氏は表舞台に姿をみせない。コインチェックの和田晃一良(こういちろう)社長(当時)らが流出後すぐに記者会見したのとは対照的だ。
業界団体ブロックチェーン推進協会(代表理事:平野洋一郎インフォテリア社長)は25日、協会の副代表を務めていた朝山氏が「多大な不安を与えた」との理由で副代表辞任を申し出、承認されたと発表した。協会は今回の流出事件について「テックビューロ内部の安全管理に関する問題だが、ブロックチェーン技術自体に対するイメージも悪化し、社会における信頼構築に時間がかかってしまう恐れがある」と懸念を表明した。
この声を、朝山氏はどう聞くのか。