2015年末の慰安婦をめぐる日韓合意に基づいて日本政府が拠出した10億円が、宙に浮いている。国連総会出席のため訪れているニューヨークで2018年9月25日(現地時間)に行われた日韓首脳会談で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、10億円の受け皿として設置された「和解・癒やし財団」を解散する意向を示唆しただめだ。
合意に基づいて設置された財団が解散するとなれば「合意破り」の批判も出そうだ。それだけに韓国メディアも、今回の発言が合意破棄につながることを警戒する論調が目立つ。
10億円は韓国政府が負担、日本の拠出分は「凍結」
15年末の日韓合意は、韓国政府が元慰安婦の女性を支援する財団を設立し、日本側が政府予算から10億円程度を一括で拠出することを前提に、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」とするもの。日本政府は16年に10億円を拠出している。元慰安婦34人と死亡者58人の遺族に計44億ウォン(約4億4600万円)が支払われたが、一部の元慰安婦や支援団体は合意の無効を主張して財団の活動を批判。この影響もあって、17年12月には民間からの理事が全員辞任し、活動停止状態だ。18年1月には、日本が拠出した10億円相当の額を韓国側が負担することを決定。日本が拠出した10億円は凍結され、宙に浮いた状態だ。
韓国メディアが大統領府(青瓦台)の話として伝えたところによると、文氏は日韓首脳会談で、財団が「正常に機能していない」として、「賢く決着させる必要がある」と発言。「(従来の)慰安婦の合意を破棄したり、再交渉を要求したりない」とも述べたといい、10億円の扱いについては言及がなかったという。
日本に返したり、元慰安婦支援の他の事業にあてる方向性
財団は日韓合意に戻づいて設置されただけに、これが解散されたとなれば、「合意破棄」ともとられかねない。この点は韓国メディアも警戒しているようだ。聯合ニュースは、文氏の発言を
「財団が役割を果たすのは難しい現実と、被害者側の解散要求を考慮したとみられる」
を分析する一方で、
「日本は合意に基づいて設置された財団が解散されると、合意破棄の手順だと受け止める可能性がある」
と指摘している。10億円の行方については
「日本に返したり、元慰安婦支援などの趣旨に合った他の事業をしなければならない状況だが、それに必要な日韓間の協議に日本が応じるかは分からない」
とみる。
中央日報も、仮に合意が破棄されるようなことがあれば
「日韓関係を越えて、国際外交の信頼性の低下が避けられない」
と、クギを指している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)