広島高裁の三木昌之裁判長は、愛媛県の四国電力伊方原子力発電所3号機の運転再開を認めた(2018年9月25日)。同高裁の野々上友之裁判長(当時)は、昨17年12月に運転差し止めを命じていたが、今回それを取り消した。なお、野々上裁判長は、その命令後に退官している。
昨年12月の決定文は400ページを超えているが、今回は80ページほどだ。昨年のものは、読むのも大変だったが、いろいろな検討点が書かれており、その意味では参考になる。新規制基準の合理性について、地震、耐震設計、使用済燃料、地すべり、制御棒、津波、火山、シビアアクシデント、テロの9項目から検討している。ここで、火山以外の項目は伊方原発運転の差し止めの根拠にならないと言っている。しかし、火山は別で、9万年前の阿蘇カルデラでの破局的噴火を想定した場合、その影響を考えざるを得ないとして、運転差し止めを命じた。
伊方原発の稼働年数と「破局的噴火」の確率
伊方原発はもったとしてもあとせいぜい40年である。その40年の間に、阿蘇の破局的噴火が起こる確率を考えてみたらいい。
筆者は、この問題をニッポン放送のラジオ番組で解説した。破局的噴火はだいたい1万年に1回であるが、ちょっと考えにくいので、隕石の地球の突入で人が死ぬ確率を考えてみた。大雑把であるが、隕石事故は100年に1回くらいはあるとしよう。ラジオ放送中に、筆者が隕石によって死ぬリスクは確かにゼロではなく、ある。そのリスクがあるから、今ラジオ放送を中止したらどうなるのか、とラジオ放送で言った。そのくらい、阿蘇の破局的噴火を運転差し止めの理由にするのは馬鹿馬鹿しいことだ。
阿蘇の破局的噴火で、四国の伊方原発を気にするくらいなら、九州は人が住めないだろう。だからといって、今九州への居住禁止にするのだろうか。四国の伊方原発が火砕流に巻き込まれるなら、川内原発や玄海原発も同様である。もっとも、そのときには残念ながら九州には人は住めないだろうから、原発対策をしても意味がないという笑い話にもなる。
市場原理を使った脱原発の流れを支持しているが...
今回の広島高裁の決定は、このような意味で、阿蘇の破局噴火を社会通念で考えることはないとしており、極めて常識的である。また、原子力規制委員会の「火山影響評価ガイド」について、今回の高裁決定は、不合理と断じている。規制委は、火山リスクを見直すべきだ。
各地において、原発訴訟は多いが、今回の決定で、それらが、原発活動家に利用されていることも明らかになった。
差し止め側の人は、今回の決定は許しがたいと憤る。しかし、最高裁への上告はしないという。その理由は、最高裁で決定が出て他の裁判に影響を与えるからだという。もし本当に許しがたいなら、抗告すべきであるが、それをしないのは、他の裁判で争いたいからというのは、自分たちの活動を優先したいと吐露しているようなものだ。
これは、差し止め仮処分申請がお手軽な訴訟手段だからだろう。仮処分の性格から、限定的な証拠で判断せざるを得ないから、やむを得ない側面もあるが、高度な科学的な知見を要する原発では、昨年の広島高裁での差止命令のように、素人目から見ても、非科学的な判断がなされているのは問題であろう。
筆者は、市場原理を使った脱原発の流れを支持しているが、差し止め仮処分のような、原理主義者の反原発論者の性急な運動はさっぱり理解できない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「マスコミと官僚の小ウソが日本を滅ぼす」(産経新聞出版)など。