防衛費の概算要求、「突出」伸び率 「抑止力向上」へ必要?トランプ圧力?

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   各省庁が財務省に提出した2019年度予算の概算要求の総額が過去最高の102兆7658億円になった。18年度当初予算を5兆530億円上回る。年末までの折衝で削っていくことになるが、これに、19年10月に予定する消費税率10%への引き上げに向けた対策も上乗せされることも考えると、当初予算として初の100兆円突破の可能性が高い。

   省庁別の主なところは、厚生労働省が2018年度当初予算比7694億円増の31兆8956億円と、社会保障費の膨張で過去最大。防衛省も陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入などで過去最大の5兆2986億円と1075億円増えた。国土交通省は災害の続発を受け、防災対策の費用など18年度予算を1兆円上回る7兆677億円を要求している。

  • 2019年度が空前の軍拡予算になる可能性も
    2019年度が空前の軍拡予算になる可能性も
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別枠で「事項要求」

   ただ、要求額には含まれない「事項要求」というものがある。金額を示さないもので、防衛省は2018年度予算で2000億円超計上していた米軍再編経費など、国交省は整備新幹線の当初の計画から追加的に生じた費用を、事項要求としている。

   また、財務省が各省庁に政策経費の1割削減を求めた代わりに設けた成長戦略など安倍晋三政権が重視する政策に優先配分する「特別枠」が4兆3175億円と過去最大に膨らんだ。

   国債費は債務の返済増などで1兆2854億円増の24兆5874億円と3年ぶりに増加した。2017年度の決算剰余金(9000億円)を返済に充てるよう求めるため、全体が膨らんだ。また、発行する国債の想定金利は18年度と同じ1.2%と、足元の長期金利0.1%前後に比べて高いが、一定の金利上昇を容認する日銀の政策変更も考慮して設定した。

   毎年のことだが、確認しておくと、国と地方を合わせた長期債務残高が国内総生産(GDP)の2倍と先進国で最悪水準の借金を抱え、財政再建が待ったなしの課題であり、安倍政権も公式には財政再建を重視する姿勢を堅持しているが、一方で安倍政権は財政再建優先を批判して経済成長を重視する論者の影響も強く、その綱引きの中での予算編成になる。

2大焦点は社会保障費と防衛費

   そこで2大焦点が、社会保障費と防衛費だ。

   まず、歳出の3分の1を占める社会保障費について政府は、高齢化に伴う自然増を6000億円と見込み、これをどこまで圧縮できるかが注目される。ところが、2019年は政府が6月に決めた今後3年間の新しい「財政再建計画」の初年度で、社会保障費の伸びについて、従来の計画は年5000億円以内に収めるという「目安」があったのが、新計画には数値がなくなった。今回は診療報酬の改定など、予算抑制につながる大きな制度改正もないので、一部薬価の引き下げや安価な後発医薬品(ジェネリック)の利用促進などで辻褄を合わせ、従来並みの5000億円増を一つの目安に圧縮する方向と見られる。ただ、医師会などの抵抗も予想され、予断を許さない。まして、団塊世代が75歳になり始める2022年度以降は医療費などが急増するとみられており、その前にどれだけ予算の膨張を抑える道筋をつけるかが国家的な課題で、経済力のある高齢者に一層の負担を求めるなど、大きな制度改革も必要だ。しかし、そうした方向への道筋を付けられるかには、悲観的な見方が多い。

   防衛費については、防衛省は当初、装備品を複数年度に分けて支払う「後年度負担」の大幅増などを受けて積み上げたのが5.4兆円規模で、そのままでは概算要求基準(シーリング)を超えてしまうため、米軍再編関係費の地元負担軽減分などの金額を計上しないことで5兆3000億円に収めた経緯がある。このため、実質的な概算要求額は5兆5000億円を超え、2018年度予算比は6%を上回る伸び率ということになる。ちなみに、安倍政権で防衛費は5年連続で増えてきたが、伸び率は最大でも2.8%で、今回の突出ぶりは明らかだ。

   今年は中長期的な防衛力のあり方を決める「防衛計画の大綱」と、5年に1度見直す「中期防衛力整備計画(中期防)」が年末にまとまるので、兵器など高額装備品の購入が膨らむのは既定路線だ。特に近年、日米間では軍事機密の多い最新鋭の米国製兵器を取得できる有償軍事援助(FMS)契約が急増していて、調達額(契約ベース)は2014年度予算の1906億円から18年度予算は4102億円に倍増、さらに19年度概算要求では6917億円に膨らんだ。このうちイージス・アショア(2基2352億円)もFMS分が1991億円を占める。FMS調達の大半は複数年度に分けて支払うから、「後年度負担」として次年度以降の予算も縛る。

統一地方選と参院選

   防衛費の膨張は、直接には北朝鮮などを念頭に「抑止力向上のため、弾道ミサイル防衛の充実や敵基地攻撃能力の保有は急務だ」(産経9月4日主張=社説に相当)といった理由だが、背後には武器の大量購入を迫るトランプ米大統領の圧力も見え隠れするだけに、「GDP比1%、5兆円前後で推移してきた防衛費のタガが、一気に外れる恐れがある」(朝日1日の社説)など、2019年度が空前の軍拡予算になる可能性も指摘される。

   このほか、公共事業は、国交省が西日本豪雨などを受け、水害対策に33%増の約5300億円を要求するなど、国土強靱化を大義名分に膨らんだが、非効率な事業が紛れ込む懸念は尽きない。2019年は春の統一地方選と夏の参院選が予定されることもあって、バラマキの誘惑は強い。

   「国民の将来不安を払拭するためにも、政府は持続可能な社会保障・財政への改革の見取り図を示すべきだ。来年度予算編成をその第一歩としたい」(日経2日社説)という正論がかき消されがちな雰囲気の中で2019年度予算編成作業は佳境を迎える。どのように決着するか、目が離せない。

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