2018年9月24日から中国からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分追加の関税をかけるとトランプ米大統領が9月17日に表明してから、中国商務部は翌18日にすぐ反撃をし、アメリカが24日に課税を実施したらその1分後に中国もアメリカからの輸入品を追加課税する、と発表した。
トランプ大統領は残りのすべての中国からの輸入品にも高関税をかけることはほぼ確実となるだろう。中国も妥協せず対抗していくと思われる。
なぜトランプ大統領はこれほど中国に対して高圧的な態度を取るのか、について、中国メディアは今後の中米貿易戦争の行方についての議論が切迫してきている。
ネットから消えた記事
中国の週刊誌『財経』は、ほとんどのメディアが中国のアメリカ専門家や研究者の分析を取り上げて誌面を構成するやり方を取らずに、8月5日に駐ワシントンの金?記者の「ここまでこじれた中米関係は以前に戻れるか?」という記事が掲載した。
金記者は、米国の政府と民間各階層において、中国への態度が全面的に変わり、実際、すでに広範な嫌中感情が見られているということを生々しく伝えている。この記事では多くの米国の学者、官僚、メディア関係者の中国に対する見方が綴られ、多くの自称知米専門家の目にはおそらくどれも厳しく、新鮮なものに映ることだろう。しかし、この文章は8月6日以降、ネットでシャットアウトされている。
その中には何が書かれたか。
「中国人として米国に生活していて、とくに1971年のキッシンジャー訪中以来、中米関係が最悪とも言われる今、どんな体験をしているのか?取り合ってくれる人はまだいるのか?」と金記者は開口一番問うた。
「1989年から2000年までの米中関係は同床異夢の夫妻に近かった。2001年から2008年までの米中関係は婚姻管理を学んでいる新婚さんのようであり、婚姻共同体のため、双方は手を携えてテロリズムに対抗し、協力して金融危機に対応した。米国は自ら進んで愛を示し、中国の世界貿易機関(WTO)加盟を認めたほどだった」とあるアメリカ人はこのように金記者にいう。しかし、今はもうそれがなくなっている。
金記者はアメリカで、中国対外経済貿易大学WTO研究院院長の屠新泉教授を取材した。屠教授は、中国を知っている人ほど見方が消極的になっていることを記者に言う。ここまでこじれてしまっても、中国と米国はまだやり直す余地があるのだろうか?すべてを元のように戻すことはできるのだろうか?という質問には、屠教授は、おそらく無理だろうと言う。
冷戦期の米ソ対立とは異なる構造
中米貿易戦争に解決の糸口は見いだせず、さらに深刻化する可能性もある。今回の貿易摩擦は両国間の相互不信と危機管理の欠如が高まったことによってもたらされたもので、将来的に両国関係に深刻な危機をもたらすことも予測されよう。
最近、中国メディアが米国ペンシルベニア大学の著名な政治学者、アヴェリー・ゴールドスタイン教授が2013年の『国際安全』誌に掲載した論文をあらためて取り上げた。それによれば、「中米両大国が今後、中長期的に維持すると思われる対抗姿勢を比較検討してみると、両国間には短期的に貿易摩擦が引き金となる軍事衝突の脅威が迫っており、『危機の不安定性』(Crisis Instability)がよりいっそう軍事衝突の可能性を高める」と指摘している。
ゴールドスタイン教授は、冷戦期における米ソの対立は現在の中米間のそれとは明らかに異なると考えている。
まず第1に、中米両国のパワー・バランスが不均衡で、米国は物量においても、その質においても中国よりも優勢である。第2に、中米両国間には、冷戦期の米ソ間にあったような非常時における成熟したホットラインの連絡メカニズムがないことである。第3に、絶え間ない技術の発展で武器の威力や精度が向上し、同時に敵の動向を探るハイテク・センサーへの依頼傾向が強くなっている。仮にどちらか一方が敵のハイテク・センサーに対して先制攻撃を加えれば、相手の反撃能力を大幅に削ぐことが可能になり、このことも「先制攻撃」に躍起となる要因となっている。
ゴールドスタイン教授の論文は、将来における中米両国の軍事衝突の可能性を検討したものだが、現在進行中の貿易戦争に対しても一定のヒントを与えてくれる。たとえば、「中国は中米間の実力の差や『危機の不安定性』を客観的に判断すべき」と指摘している。たとえば「中米間の経済貿易関係が緊密であり、それが両国間のバランスを保つ『バラスト』の役割を果たすと考えると、貿易摩擦と不安定な状況を軽視すべきではない」と警告している。
歴史は、貿易戦争が本当の戦争につながった例を教えている。
(在北京ジャーナリスト 陳言)