台風21号の影響で関西国際空港に外国人を含む多くの利用者が取り残されたことが問題化する中で、台湾の外交官が自殺した。関西地区で台湾人を支援する立場の、窓口機関のトップを務める人物だ。
台湾当局は自殺の原因を明らかにしていないが、台湾メディアは、中国が迅速に対応したのに対して台湾の対応が遅れたとされ、批判が相次いだことが背景にあるとの見方を報じている。中国側の対応を示すエピソードのひとつが「中国の総領事館が関西空港までバスを派遣し、中国人旅行者を救出した」というものだ。ただこれは事実と異なる。誤解や誤報に基づいた批判が自殺の一因になった可能性も浮上している。
遺書には台風の対応めぐる「批判を苦にするような内容」
台湾当局の外務省にあたる外交部は2018年9月14日、台湾の窓口機関にあたる、台北駐大阪経済文化弁事処の蘇啓誠処長(61)が同日朝に自殺したと発表した。外交関係があれば、総領事にあたるポジションだ。蔡英文総統も、フェイスブックにお悔やみのメッセージを発表した。
蘇氏は1991年に外交部に入り、大阪大学に留学していたこともあって、対日関係の部門を歩んできた。2018年7月に那覇から転勤してきたばかりだった。
台湾当局は自殺の原因を明らかにしていないが、台湾メディアは台風への対応が背景にあるとみている。NHKが関係者の話として伝えたところによると、大阪・豊中市内の自宅には家族にあてた遺書が残されており、
「関西空港が閉鎖され、台湾の人が取り残された際の対応について、批判を受けたことを苦にするような内容」
が記されていたという。
中国からのチャーターバス要請断っていた
関空からの利用者移送をめぐって中国語圏で拡散されたのが、中国の駐大阪総領事館がチャーターしたとされるバスの話題だ。中国のニュースサイト「観察者」は、ネット上の声を引用しながら、(1)中国総領事館は15台のバスを関空に送り込んだ(2)台湾人も一緒に乗れるかと聞いたところ、帰ってきた答えは『自分が中国人だと思うのならば乗れる』というものだった、などと伝え、この2点は台湾メディアでも拡散された。中国語圏のネットでは、中国が迅速に自国民を優先的に脱出させることに成功したとして賞賛の声があがり、それと対比させる形で、台湾当局への批判も相次いだ。
しかし、この批判の前提は間違っていたという指摘も出ている。
政治家の発言やニュース報道の内容について事実関係を検証する「ファクトチェック」を行う「台湾ファクトチェックセンター」は、日本の提携団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」を通じて関空の運営会社に事実関係を確認している。関空側は、バスの扱いについて、(1)中国の総領事館から関空にバスを乗り入れたいという要望はあったが、断った(2)すべての乗客を国籍関係なく関空のバスで目的地に運んだ。中国の乗客は、航空会社の誘導もあって、まとまってバスに乗った(3)目的地は原則として泉佐野駅だったが、中国の乗客は非常に人数が多いので、中国の乗客を乗せたバスだけ泉佐野市内のショッピングモールの駐車場を目的地にした(4)中国の総領事館が手配したバスは、この駐車場に待機していた、などと説明したという。
「台湾側の機関から関空に連絡や交渉があったという話は聞いていない」
こういったことから、この台湾のファクトチェック団体では、「中国が中国人観光客を救出するために関西空港にバスを送った」といった報道は「間違い」だと結論づけている。
ただし、関空は
「台湾側の機関から関空に連絡や交渉があったという話は聞いていない」
とも説明。チャーターバスをめぐる「誤報」がなかったとしても、中国と比べて台湾の対応が後手に回ったとして批判を受けた可能性は残る。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)