「パラリンピックを通じて、社会に何を起こしたいか」
大学時代は弁護士をめざしていた初瀬氏だが、障害により断念。就職では苦労した。最終面接まで進んだ2社のうち1社で人事担当から言われたのは、「採用したいけど、受け入れられる部署がない」。障害者雇用の実態として、「企業と、就職したい私のような人間とのマッチングができていない」と痛感した。その経験から、採用されたもう1社で4年半勤めたあと、起業した。
視覚障害者柔道では全国大会優勝経験がある。08年北京パラリンピックに出場し、現在東京パラリンピックをめざす現役選手。NPO法人・日本視覚障害者柔道連盟の理事もつとめる。東京大会の開幕まで2年を切るなかで国の大規模な水増し問題が発覚したわけだが、大会準備に影響が出ないか。
初瀬氏は「2020年大会そのものはこれから整備が進み、大成功すると思っています」というが、「パラリンピックを通じて私たちは社会に何を起こしたいか――」と続ける。
「それは、多様性を認め合える社会を作ることです。パラリンピックで車いすのアスリートがガンガン走っているのを見ると、『車いすの人ってかわいそうだね』なんて感覚はなくなるじゃないですか。スポーツにはそういう力があり、障害者への偏見を破壊してくれるのがパラリンピックなんです。
障害者が社会に居やすい環境が、パラリンピックを通じてできていくでしょう。今、メディアで『障害者』というワードを見聞きする機会が過去にないほど増えていますよね。車いすの人も、目が見えない人も、手がない人も、足がない人も、メディアによく出ている。特に子ども達にとっては、偏見を抱いていない時期から普通に接することになります。『障害者が居て当たり前』という感覚で育っていくと思います。
2020年大会はそうした社会ができていく転換点です。でも、今回の障害者雇用の問題は、パラリンピックを通じて構築したいところとは逆の現象かなと思いますね。少しつまずいてしまった。残念な気持ちはあります」