岡田光世 「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
全米テニス決勝で吹き出した政治的分断

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ウィリアムズが象徴するのはトランプか、ヒラリーか

   テニスに詳しいニューヨーク在住のナンシー(60代)は、「セリーナのファンはルールを理解していたかどうか疑問だわ。いつものように彼女が騒ぎ立てたので、何が起きているかもわからず審判に対してブーイングしたのでは」と私に話した。

   この一連の騒動について反トランプ派は、 「どんな手段を使っても勝ちたいというセリーナは、大統領選の時のトランプと同じだ」、「気に入らなければ、相手を激しくたたく。まるでトランプだ」、「セリーナも観客も、同じアメリカ人として恥ずかしい。アメリカ・ファースト。アメリカ人以外の選手には敬意も払わないのか。観客は親トランプ派に違いない」、「トランプ政権になって、アメリカ人の品格が落ちたと思われても仕方がない」などと批判している。

   一方で親トランプ派は、まったく逆の捉え方をしている。

   米国の政治や社会を紹介するウエブサイト「スペクテーターUSA」には、「泣き言を言うセリーナ・ウィリアムズはテニス界のヒラリー・クリントンだ(Whining Serena Williams is tennis's Hillary Clinton)」との見出しで論評が掲載された。

   「思うように試合が運ばないと審判に怒りを爆発させるセリーナは、2016年大統領選で自らの敗北をさまざまな不正と他人のせいにしたヒラリーと同じだ」と指摘した。

   そして、「テニスはかつて紳士淑女のゲームだったが、セリーナと彼女のファンやサポーターの不機嫌な行いは、その時代がもはや終わったことを物語っている」と結論付けている。

   全米オープンの会場は、マンハッタンからも地下鉄で行けるニューヨーク市クイーンズ区のフラッシングメドウズ。観客は反トランプ派のリベラルなニューヨーカーが多いはずだとし、親トランプ派はウィリアムズ選手と観客の姿をヒラリーとその支持者に重ね合わせた。

   テレビで中継を見ていたというインディアナ州に住むデイビッド(40代)は、「ブーイングしていた人たちのほとんどは、潔く負けを認められないヒラリー支持者たちだよ。負けると、子供のように騒ぎ立てる。なおみが気の毒で見ていられなかったよ」と強い口調で話した。

   親トランプ派も反トランプ派も、その多くは大坂選手に同情し勝利を称えているという意味では一致しているものの、とくに反トランプ派のなかにはウィリアムズ選手を性差別の被害者として擁護する声もある。

   ウィリアムズ選手は、男子選手が同じような言動をしてもペナルティを受けないはずだ、と主審を非難した。決勝戦後の記者会見でも、「私はこうして、女性の権利、女性の平等などあらゆることのために戦っている......あれ(審判のペナルティ)はセクシストの発言だと感じたのです(I'm here fighting for women's rights and for women's equality and for all kind of stuff... it made me feel like it was a sexist remark.)」と語っている。

   性差別があるかどうかは、テニス界や専門家の間でも意見が真っ二つに分かれる。後日、全米テニス協会(USTA)のアダムズ会長や女子テニス協会(WTA)のサイモン最高経営責任者は、「ラモス主審や他の審判には性差別がある」と非難した。

   当日、現地で観戦していたモニカ(30代)は、「男性と同じように女性が怒りを露わにすると、ヒステリックで攻撃的だと受け取られる。ゲームを失うなんて、あの審判は絶対に女性差別よ。これまでも女性として頑張ってきたからこそ、出産後、母親としてカムバックした彼女を応援していた」と話す。

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