半導体大手のルネサスエレクトロニクスが米半導体メーカーのインテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT、カリフォルニア州)を買収することが決まった。2018年9月11日、発表した。
買収額は約67億ドル(約7330億円)で、2019年上半期をめどに全株を取得し完全子会社とする。IDTは通信用半導体などに強みがあり、両社の統合による相乗効果で、高い成長が見込める自動運転向けなどの技術を強化するのが狙いだ。
「世界で勝っていくため」
「IDTと一緒になれば自動車や(あらゆるモノがネットにつながる)IoT(モノのインターネット)領域をもっと拡大できる。世界で勝っていくため、買収はわが社にとって極めて有意義だ」。11日に東京都内で記者会見したルネサスの呉文精・社長兼最高経営責任者(CEO)は、こう力を込めた。
買収にはIDTの株主総会での承認のほか、各国の独禁法当局の審査をクリアする必要があり、諸手続きの終了は2019年上期中がめどになる。
IDTは1980年創業。企業のデータセンターなどで使われる通信用半導体やセンサーに定評があり、工場を持たず設計開発に特化したファブレス企業。
IDTは第1に、車の目や耳として車外の情報を集めるという自動運転の「肝」の技術と言えるセンサーに強い。対するルネサスの得意は自動車の基幹部品を制御するマイコンなどで、車載半導体で2017年は世界3位(米調査会社IHS調べ)だ。両社の技術力をまとめれば弱点を補い合うことができ、より高度な製品の提供が可能になる。
第2に、IDTは通信用半導体にも強みを持つ。車載カメラなどで集めた情報をプロセッサーが処理、分析しやすいように変換する技術は、やはり自動運転に重要だ。もちろん、自動運転以外にも、データセンターや、世界で進む「第5世代(5G)」と呼ばれる次世代高速大容量通信網の整備でも通信用半導体の需要拡大が期待できる。
買収金額の大きさと、財務上の負担の重さ
「日の丸半導体」は1990年ごろには世界の売上高ランキングでトップ10にNEC、日立製作所、三菱電機を含む日本勢6社が名を連ねた。当時、日本勢が得意としたのはDRAMなどの半導体メモリーで、日進月歩の生産技術で先んじていた。しかし、少品種大量生産だけに、技術もさることながら、持続的に巨額の投資をできるかが勝負を分ける分野。ここでサムスン電子など韓国メーカーが大規模な投資を繰り返し、市場を席巻、日本勢では東芝メモリが生き延びただけだ。
そんな中、車載マイコンなど車や家電の頭脳としての役割を持つ半導体に活路を求めた日本勢だが、厳しい競争の中で単独での生き残りは厳しく、最終的に、日立製作所と三菱電機の半導体部門が統合したルネサステクノロジと、NECの半導体子会社が2010年に合併し、ルネサスが発足した。文字通り、日の丸半導体の最後の砦と言ってもいい存在だ。
ただ、合併企業の宿命で、各社の工場を引き継ぎ、リストラも思うに任せないとあって、設備の過剰に苦しんだ。そこに、東日本大震災が発生、主力工場の被災が追い打ちをかけ、経営難に。紆余曲折を経て政府系ファンドの産業革新機構の傘下に入って工場の売却や人員削減を進め、息を吹き返した。2017年には3000億円超を投じて同業の米インターシルを買収した。革新機構は段階的に保有株を売却しており、24年までに全保有株式を手放す方針で、独り立ちに向け着実に歩を進めている。
今回のIDT買収は、こうした再建の延長上で、世界市場で攻めに転じる体制を整えるものと位置付けられる。日の丸半導体復活の期待が集まるが、甘くはなさそうだ。
先ず、指摘されるのが、買収金額の大きさと、財務上の負担の重さだ。買い取り価格は1株当たり49ドルと8月30日時点の株価に約29.5%を上乗せした。総額の7330億円のうち手元資金は540億円だけで、6790億円は主取引銀行の三菱UFJ銀行などからの融資で賄う計画。この結果、有利子負債は8700億円以上に膨れ上がる。ルネサスの2017年12月期の純利益は771億円で、先に買収したインターシルと今回のIDTの収益を加え、関係者は「毎年2000億円程度は返済していける」と算盤を弾く。そうなれば3~4年で借金を返済できる計算だが、自動運転などの分野は世界の半導体大手も注目し、競争が激しいだけに、思うような収益を上げていけるか、注目だ。