テニスの全米OP第13日は2018年9月8日(日本時間9月9日)、ニューヨークのビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンターで、女子シングルスの決勝が行われ、第20シードの大坂なおみ(日清食品)が、元世界ランク1位のセリーナ・ウィリアムズ(米国)を6―2、6―4のストレートで破り、初優勝した。グランドスラムでの優勝は、男女を通じて日本勢初の快挙。また、9月10日付のWTA世界ランキングでは、前回の12位から自己最高の7位にランクアップ。初のトップテン入りを果たした。
セリーナの主審に対する暴言、そして観客からのブーイングなど、初めて迎えるグランドスラムの決勝の舞台は大いに荒れた。試合後の表彰式でもブーイングが収まることはなかった。それが地元出身のセリーナを破った大坂に向けられたものなのか、セリーナにペナルティーを与えた主審へ向けたものなのかは不確かだが、グランドスラムの悪しき歴史の一ページになったことは間違いない。
全豪オープンでも同じような場面が
そのような中で、表彰式での大坂の発言に注目が集まっている。インタビュアーの質問をいきなり遮った大坂は「みんながセリーナを応援していた事を知っています。こんな終わり方ですみません」とスタンドのファンに向けてメッセージを送った。大坂の突然の言葉に、それまでのブーイングは一瞬、静まったという。
2018年1月の全豪OPでも同じようなシーンが見られた。女子シングルス3回戦で大坂は地元オーストラリア出身のアシュリー・バーディをストレートで下した。試合後のインタビューでは「本当に幸せだけど、申し訳ない気持ちでもいます」と地元ファンを気遣った。
日本では美徳とされる「謙虚」だが、米国では「謙虚」は自信のなさを表すものとみられる風潮がある。4歳で渡米し、米国の文化の中で育った大坂は、しかし常に「謙虚」を忘れない。
「武士道」にも通じるその精神
3歳の時、当時住んでいた大坂でテニスを始めた。コーチは父のレオナルド・フランソワ氏。英会話の講師をしていたフランソワ氏にテニスの経験はなく、独学で大坂を指導。家計は決して楽ではなかった。テニスクラブに入らず、家の近くにある1時間1600円のテニスコートが、大阪の原点だった。
錦織をはじめとし、世界のトップは幼少期から名門クラブで世界トップの指導を受けている。大坂の場合、世界で頭角を現すまで、父が指導していた。世界のツアーに参戦するには、遠征費、練習場所の確保など多額の費用がかかる。それをすべて両親が工面してきた。そんな両親の背中を見て育ってきただけに「謙虚」さが身についたのだろう。
9月9日付の日刊スポーツは、試合を観戦したフランソワ氏と同郷で長年の親交がある友人のコメントを掲載している。
「なおみは日本の文化を通じて謙虚さを身に付けたことが1つの力になったのだと思う」
1990年に新渡戸稲造が米国で刊行した「Bushido: The Soul of Japan」(1908年に『武士道』として桜井彦一郎が日本語訳を出版)の中にこう綴られている。
「武士や多くの日本人は、自慢や傲慢を嫌い忠義を信条としたことに触れ、家族や身内のことでさえも愚妻や愚弟と呼ぶが、これらは自分自身と同一の存在として相手に対する謙譲の心の現れであって、この機微は外国人には理解できないものであろう」
大坂の精神には「武士道」が宿っている、といえば少し大袈裟かもしれないが、今大会の快進撃を支えたのが「謙虚」であることは異論の余地はない。