「武士道」にも通じるその精神
3歳の時、当時住んでいた大坂でテニスを始めた。コーチは父のレオナルド・フランソワ氏。英会話の講師をしていたフランソワ氏にテニスの経験はなく、独学で大坂を指導。家計は決して楽ではなかった。テニスクラブに入らず、家の近くにある1時間1600円のテニスコートが、大阪の原点だった。
錦織をはじめとし、世界のトップは幼少期から名門クラブで世界トップの指導を受けている。大坂の場合、世界で頭角を現すまで、父が指導していた。世界のツアーに参戦するには、遠征費、練習場所の確保など多額の費用がかかる。それをすべて両親が工面してきた。そんな両親の背中を見て育ってきただけに「謙虚」さが身についたのだろう。
9月9日付の日刊スポーツは、試合を観戦したフランソワ氏と同郷で長年の親交がある友人のコメントを掲載している。
「なおみは日本の文化を通じて謙虚さを身に付けたことが1つの力になったのだと思う」
1990年に新渡戸稲造が米国で刊行した「Bushido: The Soul of Japan」(1908年に『武士道』として桜井彦一郎が日本語訳を出版)の中にこう綴られている。
「武士や多くの日本人は、自慢や傲慢を嫌い忠義を信条としたことに触れ、家族や身内のことでさえも愚妻や愚弟と呼ぶが、これらは自分自身と同一の存在として相手に対する謙譲の心の現れであって、この機微は外国人には理解できないものであろう」
大坂の精神には「武士道」が宿っている、といえば少し大袈裟かもしれないが、今大会の快進撃を支えたのが「謙虚」であることは異論の余地はない。