エンゼルスの大谷翔平投手は2018年9月7日(日本時間9月8日)、敵地・Wソックス戦に5番・DHでフル出場し、3回に19号勝ち越し3ランを放った。メジャーリーグ1年目の日本人では2006年の城島健司捕手(マリナーズ)の18本を抜く新記録をマーク。打者・大谷の勢いはとどまるところを知らない。
大谷の活躍に反してチームは9月8日現在、ア・リーグ西地区で4位。ポストシーズンの進出の可能性は極めて低い。そんな状況下で右肘に爆弾を抱える大谷を使い続ける必要がどこにあるのだろうか。今や全米の注目を浴びる日本の至宝は、球団経営者の「営業方針」によって潰されてしまう危険にさらされている。
新たな故障はいつ起きたのか
右肘の内側側副靭帯の損傷で6月8日に故障者リスト入り。この時は手術を選択せず、自身の血小板を注射して靭帯を修復するPRP注射での治療を選択。この治療法はヤンキースの田中将大投手が受けたことで知られる。手術との大きな違いは復帰までに要する時間。肘にメスを入れた場合、復帰までに1年ほどかかるが、PRP注射での治療は約6週間で復帰出来る。ただ、米国での成功例がまだ少ないため、主流とはなり得ていない。
7月2日に打者として復帰し、9月2日には88日ぶりのマウンドに立った。この日は2回3分の1、49球を投げたところでマウンドを降りた。160キロを計測することは一度もなかった。右肘に異常が発覚したのは試合直後のこと。右肘のMRI検査を受け、新たな損傷が見つかり、球団はトミー・ジョン手術を勧められていると発表した。トミー・ジョン手術とは、肘の側副靱帯再建手術のことで、日本では荒木大輔氏、桑田真澄氏が手術を受けたことで知られ、最近ではダルビッシュ有投手もこの治療を選択した。
ここで問題視されるのが、右肘の新たな損傷は、いつ損傷したのかだ。球団による発表がない現時点で断定は出来ないが、9月2日の登板で損傷したのならば球団の責任は大きい。医療スタッフが、全力投球をしたとしても右肘に問題はないと判断したわけで、新たな損傷を予測出来なかった。
張本勲氏も球団の方針に異論
また、打者として右肘にかかる負担はなかったのだろうか。復活マウンドに上がるまで、打者として2ヵ月間、バッターボックスでフルスイングをしている。米スポーツサイト「ジ・アスレチック」は6月11日付で、投手としてかかる肘の負担と、打者としてスイングをした際に肘にかかる負担に関して、次のような仮説を立てている。「肘への衝撃は投球時の3分の1しかない」。ピッチングほどではないにしろ、肘に負担がかかることは明白で、ここにも球団の見通しの甘さが見られる。
野球評論家・張本勲氏も球団の経営方針に疑問を投げかけている。9月9日放送のTBS系「サンデーモーニング」に生出演し、大谷が右肘の手術を受ける可能性があることに関して「心配だわね。手術をするって言っているからね球団は。球団の言うことをきかないといけないからね。チームは本人のために大事にしてもらいたいんですよ」と球団にダメ出し。続けて「この人が出ると5、6000人? お客が来るとかね、4位だから優勝全然関係ないから。そういう営業面で引っ張ろうとしているから困るんだ」と指摘。張本氏の苦言はこれに留まらず、「大事な選手だからしっかり結論出して。恐らく今シーズンは手術しない方がいいと思いますよ。やるんなら終わってからやった方がいいと思います。長い目で見たら」と自身の意見を展開した。
「長年活躍してほしい」と本気で思うなら
2018年9月9日付けのスポーツ報知は、右肘の手術の可能性がある大谷の胸中をインタビュー形式で報じている。スイングへの影響を否定しつつも、今後手術を行うことで決まれば、経験者に改めて相談する可能性に言及した。
大谷のエンゼルス入団会見時にマイク・ソーシア監督は次のように語っていた。
「やはり大谷選手には何よりも二刀流で行ってもらいたい、そういう形で今後も進めていくと説明している通りです。これからのことを考えれば、まず最初のピッチングでシーズンが変わってくると思います。まずはチームで長年活躍をしてもらえるような形で歩みを進めていってもらいたいと思います」
多くの客を運んでくる大谷を球団が「長年活躍してほしい」と考えるのは当然だろう。ただ、今のように単なる「客寄せパンダ」として扱っているようでは、二刀流の終焉の日も近いかもしれない。