スマホカバー、スマホカバー、スマホカバー。右を見ても左を見ても、前を向いても後ろを向いても、視界に入るのはフックにかけられたスマホカバーばかり。
フロアにひしめき合うのは、四畳半ほどのスペースの小さな店舗。その数は何十にもなる。それがすべて、スマートフォン用のカバーを売る業者だ。
最先端とパチモンが併存
「ハウマッチ?」
その店の一つでカバーを手に取り、カタカナ英語で問いかけた。20代の女性店長が電卓を叩く。10元(約160円)だ。OKすると、机の上のWeChat Pay(微信支付)のQRコードを指差された。傍らでは、店長の娘らしき子どもが遊んでいる。
2018年8月、中国・深センの電気街「華強北(フアチャンベイ)」の光景である。
香港の対岸にある深センは、中国を代表するIT都市として知られる。「華強北」はその心臓部ともいえる電気街だ。
電気街、というと、秋葉原を思い浮かべるかもしれない。確かに似ている。昔ながらのパーツ街や、裏通りにあるガジェット系のショップと雰囲気が近い。ただ、規模がとにかくデカい。
一画にはショッピングモールほどの大きさの建物が何軒も立ち並び、その中にぎっしりと小規模な業者が入居、電子部品からPC、スマホ、家電、ドローン、おもちゃに至るまで、ありとあらゆるデジタルガジェットを売る。店舗数はなんと、1万を超えるという。
そこには最先端の製品が集まる。一方、いわゆる「パチモン」も横行している。
上記のようなスマホカバー店街は、その典型だ。「宝格通信市場」では、3フロアがスマホ用のカバーを扱う小店舗で埋め尽くされている。だが、売り場には、笑ってしまうほどあからさまなパチモンが少なくない。
たとえば、人気ブランドの「Supreme(シュプリーム)」のロゴが描かれたカバーは、数えきれないほど見かけた。ある店で売られていたのは、「Supr」の4文字とともに、ルイ・ヴィトンのロゴがあしらわれたカバーである。ブランド効果なのか、25元(約400円)という強気の値段だ。
セラムン、クレしん、まる子などが人気
日本のアニメキャラもいる。人気どころは、ドラゴンボール、セーラームーン、クレヨンしんちゃん、ドラえもん、ちびまる子ちゃん。最近の作品は少なく、ONE PIECEとNARUTOくらいだ。単に既存の画像をパクるのではなく、アレンジを加えているものが多いのが目を惹く。
たとえば「ドラゴンボール」のクリリンがSupremeを着ていたり、「セーラームーン」の月野うさぎがインスタグラムをやっていたり。画像を流用するにしても、目元だけをアップにするなど、その編集はかなり大胆だ。中には、別作品のキャラ同士が一つの商品に描かれていることもある。
公式では「ありえない」改変や組み合わせである。著作権者としてはたまったものではない。だが結果的に、現代アート的ともいえる、ある種のオリジナリティーが生まれている。
収録本数競い合う「偽ミニスーファミ」
スマホ・通信のファーウェイやZTE、ゲーム・ITのテンセント、ドローンのDJIなどが本社を置き、いまや国際的な先端都市となった深セン。そこで今なお出回るパチモンたちには上記のスマホカバーをはじめ、ある種のイズムが感じられる。パクリだろうがなんだろうが、先行製品にはない(できない)ものを加えて客の心をつかんでやる、という商魂であり、過剰なまでのサービス精神である。
たとえば偽「ミニスーファミ」だ。デザイン、収録ソフトはまったくのコピーだが、せめて収録作数(オリジナルは21本)では負けまいとしたのだろう。ある商品は300本。後発と見られる別の商品は620本。さらに最後発らしき商品は「621本」収録をうたう。ただし入っているソフトはいずれもファミコンで、「ボンバーマリオ」や「マリオ10」など、かなり怪しいタイトルで水増しされているが......。
別の売り場では、アクションカメラが大量に店頭に並んでいた。業者は様々だが、いずれも見た目はGoProそっくりだ。マウント(アクセサリー)も共用できる。ここまで来ると、もはやひとつのプラットフォームだ。値段も、高機能をうたうモデルで180元(約3000円)と、比べ物にならないほど安い(性能は推して知るべし)。
「華強北」走り回る子どもたち
同じフロアで見つけたのは、「L8STAR」なるブランドの携帯電話「BM10」である。携帯研究家の山根康弘氏がすでに紹介している通り、デザインはノキアの復刻版「3310」とうり二つである(別の売り場ではノキアのロゴが入った同型機を見かけた)。
が、このBM10がすごいのは縦幅68mm――成人男性の親指ほどのサイズという点だ。これでBluetoothにも対応し、スマホとひもづけて受信機代わりに使うこともできる。パチモンといえばそれまでだが、「超小型化」という突き抜けた改変の結果、少なくとも大手メーカーには「ありえない」製品となった。
深センが中国政府により経済特区に指定されたのは、1980年のことだ。それから40年弱。2018年8月にはファーウェイ・ZTEが米政府から締め出され、同じ月には「テンセント・ショック」が世界的な混乱を招くなど、深センから誕生した国際企業たちは今、岐路に立たされているようにもみえる。
そんな中でも、野放図に売られ続けるパチモンたち。中国語ではパチモンを「山寨(ゲリラ)」と呼ぶが、まさに非正規軍的なエネルギーが、まだ深センには漂っている。
(J-CASTニュース編集部 竹内 翔)