8場所連続休場中の大相撲の横綱・稀勢の里が、2018年9月9日から東京・両国国技館で行われる秋場所に出場することが正式決定した。日本相撲協会は7日、両国国技館で秋場所の取組編成会議を開き、初日と2日目の取り組みを発表。注目の稀勢の里の初日の相手は東前頭筆頭・勢(伊勢ノ海)、2日目は西小結・貴景勝(貴乃花)に決まった。
年6場所制となった1958年以降、横綱としてワーストの8場所連続で休場した稀勢の里。秋場所は、まさに背水の陣での戦いとなるが、体調は決して万全ではない。場所前の稽古では、かつての力強さはない。相撲にも迷いが見られる。本来は左よつで立ち合い左を差しにいくところを、痛めた左上腕部の回復が思わしくないのか、9月6日に阿武松部屋に出稽古した際には、立ち合いで右前まわしを取りに行く場面も見られた。本場所を2日後に控え、稀勢の里の「心・技・体」の歯車が音を立てて狂いだしている。
横綱引退の34%が連続休場明け
データも稀勢の里には味方しない。年6場所制となってから横綱として土俵に上がったのは29人。その中で、4場所以上の長期休場明けで優勝した横綱は柏戸と大鵬の2人だけ。8場所連続休場した稀勢の里の優勝はほぼ絶望的だ。角界の頂点に君臨する横綱は、常に優勝争いに絡むことが「義務付け」られている。現状では、この最低ラインさえクリアすることは非常に困難であると言わざるを得ない。
実際、5日付の日刊スポーツは、稀勢の里の稽古を見た元横綱で解説者の北の富士氏が、稀勢の里を酷評したと報じている。日刊スポーツによると、稀勢の里が9月4日、都内の尾車部屋で行われた二所ノ関一門の連合稽古に参加し、大関豪栄道に3勝8敗と負け越し。この様子を見ていた北の富士氏は「悪いものを見ちゃったな。今の状態では非常に苦しい。この場所に懸ける気迫が感じられなかったのが一番残念」と漏らし、また、芝田山親方(元横綱大乃国)も「進歩がない。ただ受けているだけ。右も何をしたいか分からない。引っ張り込むでも上手を取るでもないし」と指摘した。
序盤で負けが込むようであれば、引退という最悪のシナリオが待っている。ここでもまた、稀勢の里にとっては不吉なデータがある。年6場所制になって以降、連続休場明けの場所で引退した横綱は10人(栃ノ海・北の富士・北の湖・三重ノ海・千代の富士・隆の里・北勝海・旭富士・三代目若乃花・武蔵丸)。引退した横綱の34%が、連続休場明けとなっている。かつての師匠である「おしん横綱」隆の里は、休場明けの場所で初日から2連敗を喫して土俵を去った。
ヤマは2日目に訪れる
日本相撲協会の諮問機関、横綱審議委員会(横審)は、7月の定例会合において秋場所での稀勢の里の成績面に関して具体的な要望を出さなかった。2018年7月23日付のサンケイスポーツ(ウェブ版)は次のように横審の北村正任委員長(毎日新聞社名誉顧問)のコメントを報じている。
「本人が、どういうふうに判断するかということが非常に大事。外からいろいろ条件をつけて、こうなら引退だとかは言うべきではない」
唯一の日本出身横綱に最大限の「温情」をかける横審だが、関係者が口をそろえて指摘するように現状、明るい材料は全くと言っていいほどない。注目の初日の相手である勢には過去、15勝1敗と大きく勝ち越している。ただ2日目の貴景勝には1勝2敗と負け越している。稀勢の里は貴景勝のような小柄で押し相撲を得意とするタイプに苦戦する傾向があり、2日目が序盤のひとつのヤマとなるだろう。今場所、両国国技館で座布団が乱舞する光景が何度見られるのだろうか。稀勢の里にもう待ったはない。