優生保護法の強制不妊手術の背後に精神医学界 野田正彰さんが改めて批判、「責任を問われるべき」

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   優生保護法にもとづく精神障害者への強制不妊手術が関心を呼んでいる。この問題を45年前に指摘した著名な精神科医・野田正彰さんに改めて背景などを聞いた。野田さんは「間違った政策や差別意識を促進したのは精神科医。その責任が問われるべき」と批判している。

  • 強制不妊手術の背景に、精神医学界が大きな影響を与えていた
    強制不妊手術の背景に、精神医学界が大きな影響を与えていた
  • 強制不妊手術の背景に、精神医学界が大きな影響を与えていた

北大精神科の強い影響

   野田さんは優生保護法を土台とした精神病への偏見が社会通念化したのは当時の教科書の記述が大きく、マスコミ報道がそれを広げたと指摘した。中学や高校の保健体育や家庭の教科書は精神病を遺伝病ときめつけ、優生保護法を強調するものばかりで、野田さんは1973、4 年の『朝日ジャーナル』誌に「偏見に加担する教科書と法」などの論文として発表した。また、患者が絡んだ事件をマスコミは「刃物男」「業病」など危険をあおるような言葉を多用して報道した。

   2017年に被害者の損害賠償請求訴訟が起きたことから、野田さんは改めて優生保護法そのものに注目した。同法は1948年 (昭和23) に公布されたが、都道府県で強制不妊手術が最も多かった北海道では1956年 (昭和31) に「優生手術千件突破を顧みて」と題する報告書が出ていた。対象者はいずれも精神障害者で、手術が適切かどうかを判定する北海道優生保護審査会によると見られる患者の記述は精神病への偏見に満ちていた。精神科医の委員は北海道大学医学部精神科教授と卒業生だった。

   野田さん自身も卒業した北大精神科初代教授は内村鑑三氏の息子の内村祐之氏で、後に母校の東大教授に転じ、一貫して精神医学界の重鎮だった。その内村教授は1953 (昭和28) 年、日本精神衛生会理事長として厚生省に対し、文書で専門部署の「精神衛生課」の設置と「精神障害者の遺伝防止のため優生手術を促進する財政措置」を要望していた。また強制不妊手術は北海道に次いで、宮城、岡山など、北大卒業生や内村教授の弟子が教授を務める都道府県が多かった。これらのことから、野田さんは手術の背後には内村教授・北大精神科の強い影響があった、と結論づけた。

   しかも、当時から1980年代までは北大教授が執筆した精神医学の教科書が大学医学部で最も広く使われてきた。「優生保護法は精神医学の基本的イデオロギーのような存在で、精神科医だけでなく他科の医師の多くも精神病を遺伝と誤解している」と野田さん。現実に子どもの結婚で相手家系に精神病患者がいると医師は一般の人以上に猛烈に反対するケースが目立つ。

   それなのに、内村教授の著書では強制不妊手術についてはいっさい書かれておらず、精神医学界でも精神科医の関与を指摘するような動きもなかった。「精神医学界が根本的に反省し再出発しなければならない」と、野田さんは訴えている。

(医療ジャーナリスト・田辺功)

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