「まずは、南相馬で田んぼをはじめる」そして......
―― カトウファームさんの描いている福島の農業の将来像をお聞かせください。
晃司さん 「会津から仲の良い若手農家がよく手伝いに来てくれます。会津は(米作りを)辞める人が少ないんです。その一方で、中通りや浜通りは米農家がなかなか定着しないので、これを繋げて、県内全域で人材を育成していきたいと考えています。
『南相馬プロジェクト』として3年計画のつもりで、南相馬で米作りの担い手を増やしていきたい。すでに1町歩の耕作地(1000平米)を手に入れ、少しずつですが実績をつくって、広げていこうかと。近い将来には、耕作地域を浪江町にまで広げたいんです。その拠点を、南相馬に設けたところです。
米は食糧でもあります。その根本は米農家を増やすことであり、土地を守ることです。農家は土地、技術を継承しなければならないんです。自分の子供たちが継がないとしても、志を持った人に米作りを続けていってほしい。そのために、『カトウファーム』(会社組織)にしたんですから。会社としては、福島の復興とともに地域を担う、100町歩(100万平米)の大規模農家を目指しています。」
カトウファームは、福島復興とともに地域を担う大規模農家を目指す(加藤晃司さん)
絵美さん 「私たち、この先10年かけてでもいいと思っています。人材育成も販路開拓も。いろんな問題が山積みですが、今は一歩ずつでも何かしなきゃいけないんです。人も販路もできてくれば、だんだんと地域に貢献できる会社になっていけるのかなと思っています」
―― お子さんたちは、お二人をどのように見ているのでしょうか。なにか言っていますか?
絵美さん 「長男は反抗期もあってか、あまり話をしませんね(笑)。それでも、私が東京へ出かけるときなどは下の子の面倒をみてくれていますし、理解はしているのではないかと」
晃司さん 「どうでしょう。私も、なにも言いませんからね。それに農業を継いでもらおうとか、思っていませんよ(笑)」
絵美さん 「あっ、でも下の子(小学3年生)は少し興味があるのかもしれません。関心がないように装っていても、(長男も)ちゃんと見てくれているんじゃないかな。ワイワイ、楽しくやっているところを見せていくことが大事なのかな、と思っています」
「福島に来てほしい。肌で感じてほしい」という、加藤晃司さん、絵美さん
―― お客さまへ伝えたいメッセージはありますか。
絵美さん 「福島に来てほしいですね。観光でも、ボランティアででも来てもらえると、やっぱりうれしいですし、福島のこと、農業のことを自身の肌で感じてもらえれば、少しでもわかってもらえるように思います」
晃司さん 「どんな仕事でも大変さは変わらないでしょうが、農業も大変です。自然が相手ですから、大雨が降れば、夜でもびしょ濡れになりながら作物を見守りますからね。でも、有意義な時間を過ごせていると感じています。やっぱり、土をいじっているとき、農作物と話をしているときが一番楽しいですし、ホッとするんですよ。そうやって作るお米を、食べてほしいですね」
カトウファーム
加藤晃司・加藤絵美(かとう・こうじ/かとう・えみ)
2009年に祖父の跡を継ぐため、サラリーマンから米農家に転身。現在は高校生の長男を頭に、4人の子供を育てながら、米作りと「福島」の食の安全を日本全国に広めている。
減農薬で丹精込めて育てる、福島県のブランド米「天のつぶ」は、福島盆地の寒暖差と清流が生きたやさしい甘みと、粒ぞろいがよく食べ応えのある品種。米の安心・安全の国際的な保証基準である「グローバルGAP (Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)」の取得と、取得する農家の支援に取り組む。オーガニック栽培もはじめた。