震災、原発事故もプラスに変える
―― 米作りの課題は、どこにあるのでしょう。
晃司さん 「お米の価格が、もう一つの課題です。震災前は、ずっと地元の業者さんが提示する相場で売っていたのですが、受諾作業の仕事が減って、自分たちの作ったお米を売ったお金で生計を立てなければと考えたときに、買い取ってもらう金額と実際の労力が合っていなかったことに気づかされました。
お米の品質には自信をもっていますが、米価は産地で決まってしまう部分が大きいので、とくに原発事故後は『福島』というだけで価格が低く設定されていると感じました。ただ、その半面で作るだけじゃなく、もっとお米の単価を上げる努力をしないといけないことに気づきました」
「福島米が安全なことを知ってもらいたい」と語る加藤絵美さん
絵美さん 「米価は需給関係で決まりますから、仕方がないことなのですが、だからといって食べてももらえず、風評で評価が決まることは歯がゆく感じていました。そこはなんとかしなければいけないと、震災をきっかけに『ブランディング』していくことを考えはじめました」
―― それが現在の取り組みに繋がるわけですね。
絵美さん 「震災後しばらくは、試行錯誤しながら売り上げを確保してきました。勉強会に出て、ブランディングの視点からお米をどう売るかを考えたり、『天のつぶ』を福島県より先に売り込んで、東京をはじめ、呼ばれればどこへでも出かけました。実際に見て、食べて、感じてもらいながら、ゆっくりでいいので盛り上がっていけばいいと思いましたし、その一方でWEBサイトを作って、お米の情報を発信したり、日常の作業の様子を日記のように更新したり、できることからPRしはじめました。
こうした活動のおかげで『天のつぶ』のおいしさや、福島産のお米の安全性をわかってもらえるようにもなってきました。今は情報発信を通じて、カトウファームのファンになってもらうというよりも、福島のファンになってもらいたい。自分と出逢ったことをきっかけに福島を知ってもらいたい、と強く思っています。福島全体がよくならなければ、自分たちの売り上げも長続きしないと思うんですよね。
震災と原発事故によって、あまりいいイメージはないでしょうが、少なくとも『福島』を知らない人はいなくなりました。『メジャーになったな』くらいの気持ちで、前向きにとらえていこうと考えるようになりました」
福島の寒暖差がある気候と清流が「天のつぶ」を育む
―― 「天のつぶ」の特徴やおいしさを教えてください。
晃司さん 「福島県が15年かけて開発した品種で、減農薬だけでなく、福島盆地の特徴である寒暖差と福島市の清流で、やさしい甘みと、粒ぞろいがよく、食べ応えのあるしっかりとした食感が楽しめます」
カトウファーム
加藤晃司・加藤絵美(かとう・こうじ/かとう・えみ)
2009年に祖父の跡を継ぐため、サラリーマンから米農家に転身。現在は高校生の長男を頭に、4人の子供を育てながら、米作りと「福島」の食の安全を日本全国に広めている。
減農薬で丹精込めて育てる、福島県のブランド米「天のつぶ」は、福島盆地の寒暖差と清流が生きたやさしい甘みと、粒ぞろいがよく食べ応えのある品種。米の安心・安全の国際的な保証基準である「グローバルGAP (Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)」の取得と、取得する農家の支援に取り組む。オーガニック栽培もはじめた。