トルコの通貨・リラが急落して世界の金融市場を揺さぶっている。1日で2割も価値が下落するという「トルコショック」から半月あまり。一時よりは持ち直しているとはいえ、先行き、視界は容易に晴れそうにはない。いったい何が起き、これからどうなっていくのか。
ことの直接の発端は、2018年8月10日にトランプ米大統領が鉄鋼などトルコの一部製品への関税引き上げを表明したこと。米国は、16年7月にトルコで起きたクーデター未遂事件に関わったとしてトルコ当局が軟禁している米国人牧師の釈放を求めてきたが、応じないことから経済制裁として関税引き上げまで踏み込み、一気にリラが売られる事態になった。この日、リラの価値は1日で2割下落するという空前の暴落を演じた。
背景にあるのが、米国の利上げ
トルコのエルドアン大統領は米国の要求を拒否し、同様の措置を米国に対して取り、世界貿易機関への提訴のほか、米国製品の不買運動を国民に呼びかけるなど強硬姿勢を貫き、解決の糸口が見えない。そんな中、他の新興国に飛び火し、通貨安が広がる懸念が強まっている。
ただ、トルコはじめ新興国通貨の問題は今に始まったことではない。トルコ・リラは今年初めには1ドル=3リラ台だったのが、徐々に下落して5リラ程度になっていたところに米国の関税問題が勃発し、一気に7リラ台に下げた。年初からは4割以上の下落だ。
大きな構図として背景にあるのが、米国の利上げだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策の正常化として今年はすでに3、6月に政策金利を引き上げ、次回9月の公開市場委員会(FOMC)で3回目の利上げ実施が確実視されている。この流れで世界の投機資金が米国に還流し、トルコを含む新興国は逆に資金流出に見舞われ、アルゼンチンやブラジルなども通貨の下落が進んでいた。
その中で、トルコに特徴的なのが、米国との政治的な摩擦に加え、利上げに後ろ向きということだ。
国際政治の不確定要素にも
例えばアルゼンチンは昨17年来の通貨ペソの下落を受け、通貨価値の防衛のため政策金利を40%まで上げていたところにトルコショックが起こり、18年8月13日に45%まで利上げした。これに対し、トルコのエルドアン大統領はかねて金利を「搾取の道具」などと呼び、景気を冷やす利上げに反対し、むしろ利下げさえ求めてきた。インフレ率が十数%から20%程度で、金融の常識では利上げは不可避とされるが、強権的政権運営のため、中央銀行は利上げに踏み切れず、国際社会はその独立性を疑問視している状態。いまのところ、政策金利はいじらずに市場への資金供給の手綱を若干締めた程度だ。
トルコショックは先進国を含む株式市場にも大きな影響を与えている。今後は、どうなっていくだろうか。
まず日本については、円が相対的に安全な資産として買われやすい地合いになっている。今のところ「ドル一強」の状況だが、ちょっとした風向きの変化で円高に振れる可能性が指摘され、今後の動向は注視が必要だ。
米利上げを背景とした新興国の通貨不安に、米・トルコの政治的な対立が加わった形で、権威主義的な両政権だけに、事態の収拾、容易に見通せないというのが大方の見方だが、経済問題以上に、米・トルコの対立は国際政治の不確定要素として不安をかきたてている。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)に加盟する西側同盟国の一員で、中東への影響力など、安全保障上の重要な役割を果たしている。欧州を悩ます難民問題では、欧州連合(EU)との合意に基づいて、シリアなどからの流入の「防波堤」にもなってきた。
中国も食指を伸ばす
この間、シリア内戦をめぐってトルコが敵視するクルド人勢力を米国が支援していることに反発したトルコがロシアと手を組む状況になっていた。中国もトルコに食指を伸ばし、習近平政権は「一帯一路」の一環でトルコに対し国有銀行の4000億円規模の融資を決めるなど、両国の接近も顕著になっている。
中東では親米の盟主サウジアラビアと対立するカタールが、今回、トルコに150億ドル(1兆6500億円)の直接投資を表明した(15日)。カタールが2017年にサウジから一方的に断交され、食料供給も断たれた時、トルコが実施した食糧空輸などへの「恩返し」と言われるが、カタールの「親イラン」姿勢、イランとロシア・中国との緊密な関係などから、米国の対トルコ強硬姿勢が、トランプ政権が敵視するイランなどの側へトルコを追いやるという皮肉な構図になっている。
こうした動きに危機感を抱くのが欧州で、ドイツ、フランスなどは「トルコ経済が強くなることはドイツにとっても重要」(エルドアン大統領と会談したメルケル独首相=15日)などとして、貿易拡大など経済協力を強め、「西側」につなぎとめようと必死だ。
複雑な国際情勢の中で、トルコをめぐる様々な動きは、経済問題にとどまらない国際政治の大きな焦点になっている。