SNSで広がるレッテル貼り
観光でニューヨークを訪れていたあるアメリカ人夫婦(50代)は、スポーツクラブの経営者だが、ビジネスに影響が及ぶことを恐れ、「隠れトランプ支持者」であり続けていると私に話した。
60代の知人のロブは、大統領選キャンペーン中から フェイスブックの「友人」がトランプ氏や支持者をバッシングする投稿を流し続けていることに、不快感を隠さない。
別のトランプ支持者は、孤独感や疎外感だけでなく、強いストレスも感じているという。
「トランプ氏や支持者が繰り返し批判され、笑い者にされ、攻撃され続けている。僕らも、差別主義者だの、教育レベルが低いだの、勝手にレッテルを貼られて、もうたくさんだよ」
フェイスブックなどのソーシャルメディアでは日々、「トランプ支持者ら。恥を知れ!」(Trump supporters. Shame on you!)といった投稿が飛び交っている。
トランプ大統領就任式の日(2017年1月20日)の朝、トランプ支持者の私の友人(60代)のベッツィが浮かない顔だったことを思い出す。彼女は以前、大きな期待を込めてオバマ大統領に投票したが、「オバマ氏の政治家としての力量に失望し、今回はトランプ氏に一票を投じた」という。
その日、マンハッタンの彼女の職場では、大きなスクリーンでテレビ中継を見ることができるように配慮されていた。
「自分が一票を投じた大統領の就任式だもの。もちろん見たいけれど、仕事をしているわ。祝う気になれない人に囲まれて、孤独を味わうのは嫌だし、彼に対する誹謗中傷も聞きたくないから」
それ以来、トランプ氏をめぐる状況は、あまり変わっていない、とベッツィは感じている。
2017年2月のオンライン調査によると、アメリカ人の3人に2人が米国の将来についてストレスを感じている。そしてそのほとんどが、政治的な分裂が激しいことを理由にあげているという。
サイコセラピストなどの専門家らは、トランプ支持派も反トランプ派も、「不安を取り除くには、ソーシャルメディアといった、不安をかき立てる要因からなるべく距離を置くように」と呼びかけている。
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。