台湾で慰安婦像が初めて設置されたことをめぐり、行政院長(首相)まで経験した与党・民主進歩党(民進党)の大物政治家が「台日関係を破壊する」と苦言を呈している。
慰安婦像が設置されたのは南部の台南にある最大野党・国民党の支部の敷地内だ。国民党は親中志向が強いのに対して、民進党は独立志向。台湾での与野党の対立が日台関係にも影を落としているとも言えそうだ。
除幕式には国民党の馬英九・前総統も出席
台湾では59人が慰安婦だったと名乗り出ており、うち2人が存命だ。慰安婦像は2018年8月14日に設置。現地の女性団体が計画し、国民党が敷地を提供した。序幕式には、慰安婦問題について「日本は謝罪すべき」だと繰り返してきた国民党の馬英九・前総統も出席した。
こういった状況に異を唱えたのが謝長廷・台北駐日経済文化代表処駐日代表だ。国交がある国であれば駐日大使にあたるポジションで、陳水扁政権(民進党)では、首相にあたる行政院長を務めていた。
8月21日夜のフェイスブックの書き込みでは、上海師範大学で予定されていた慰安婦に関するシンポジウムが中国外務省の指示で中止されたことや、中国当局が漁民に尖閣諸島に近づかないように呼び掛けていると報じられているなどを挙げ、これらが「日本を中国側に引き寄せることが目的」だと指摘。その上で、国民党の動きを念頭に
「その一方で、台湾内部の中国派政党は台日間の矛盾と対立を常に拡大しようとしています」
などと非難した。とりわけ、慰安像が設置されたことや、国民党が福島など5県産食品の輸入解禁賛否に関する国民投票を行おうと署名集めをしたりしていることについて
「台日関係を破壊するものであることは、言わなくても明らか」
だとした。
菅官房長官「これまでの取り組みと相いれない、きわめて残念なこと」
慰安婦像の設置をめぐっては、菅義偉官房長官が8月15日の記者会見で
「本件含めて、世界各地の慰安婦像の設置・展示は、我が国政府の立場やこれまでの取り組みと相いれない、きわめて残念なこと」
だとして、窓口機関を通じて台湾当局に「申し入れ」を行ったことを明らかにしている。
こういったことを背景に、謝氏の書き込みでは、
「このように一方で日本を抱き込み、もう一方で台日関係を分裂させることにより、台日の友情を破壊し、台湾を孤立させるという目的が一歩達成されたことは、大変憂慮すべきことで心が痛みます」
などと親中派の動きを改めて批判している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)