夏の甲子園(第100回全国高校野球選手権記念大会)で大阪桐蔭(北大阪)が金足農業(秋田)に13-2で完勝した決勝戦について、落語家の立川志らくさんは「せめて決勝は1、2日空けるべきだった」と、日本高校野球連盟など主催側に苦言を呈した。
毎年のように波紋を広げる甲子園の「過密日程」問題。八代英輝弁護士も「米国では『虐待』と報じられている」と疑問視した。一方、甲子園決勝経験者からは「毎日投げた方がいいときもある」との声がある。
「万全の状態でできるシステムを作ってやるべき」
志らくさんは2018年8月22日放送の「ひるおび!」(TBS系)に出演。金足農のエース・吉田輝星投手について「本当に素晴らしい活躍だった」と称えながら、
「全部投げていたからこういうドラマが生まれたというのは分かるけど、選手のことを考えると、せめて決勝前に1、2日休ませたかった。わが日大三高と戦った準決勝のあのピッチングができたら、一番強い大阪桐蔭とどれだけの試合ができたか、見たかったです」
と、万全でなかったことを惜しんだ。
吉田投手は今大会、8日の1回戦で157球、14日の2回戦で154球、17日の3回戦で164球、18日の準々決勝で140球、20日の準決勝で134球と、2週間足らずの間に全5試合を完投、749球を投げてきた。決勝は準決勝翌日の21日に行われている。
自責点は1回戦から準決勝まで1、3、4、1、1点で計10点(失点は11)、防御率に換算すれば2.00の安定感を見せてきた。それでも決勝は5回12安打12失点(自責点は11)と打ち込まれ、今大会初めてマウンドを降りた。この試合も132球を投げ、今大会計881球を数えた。
大阪桐蔭・根尾昂内野手の2点本塁打などで6失点を喫した5回、菅原天空(たく)内野手が駆け寄った時に吉田は「もう投げられない」と、過去にない弱音が出たという。試合後には「4回から下半身が動かなくなった。大阪桐蔭打線に歯が立たなかった」と自分を責めた。
「『歯が立たなかった』と彼は言ったけど、もう体力が限界だった」と、志らくさんは番組で連投によるコンディション不良を慮った。その上で、
「選手のことを主催者側が考えてあげて、大阪桐蔭も疲労しているわけだから、せめて決勝は1、2日空けて、万全の一番良い状態でできるシステムを作ってやるべきじゃないですか」
と、主催側に苦言を呈していた。
「1日で疲れは取れない」
番組では、米ニューヨーク州の弁護士資格をもつ八代弁護士も「万全の状態で戦わせてあげたかったとすごく思います」とした上で、
「高校生に『もう投げられない』と言わせる主催者ってどうなんだろうと思います。米国だと『虐待』と報じられていますから、夏の一番暑い時期に連日(試合を行う)。もう少し考えてほしい」
と、過密日程を組む高野連の姿勢を問題視している。
「吉田のために」と金足農がチーム一丸で吉田投手を盛り立て、それに応えるように熱投を続けたエースの姿は感動も呼んだ。一方で甲子園の過密日程は、有力選手を何人も抱えられない同校のような公立校を中心に、エース投手の過大な負担となり、毎年のように問題視もされる。
こうした甲子園の二面性は、元大阪府知事・前大阪市長で弁護士の橋下徹氏も言及した。ツイッターで22日、「大阪桐蔭と金足農業のメンバーには敬意」と決勝を戦った両校を称えると、
「しかし金足農業の吉田選手を美談で終わらす間は、日本のスポーツ界に未来はない。吉田選手にどれだけの負担がかかり、選手寿命をどれだけ縮めたのかを科学的に明らかにすべき。それくらいのことができないなら日本のスポーツ科学論は役立たず」
と検証の必要性を訴えた。
一方、当の選手たちにとってはどうなのか。69年の第51回大会で三沢(青森)を準優勝に導き、プロ入り後近鉄バファローズなどで活躍した太田幸司氏は、22日付サンケイスポーツで「投手の投げ過ぎが心配なら、監督が酷使しなければいいだけの話」と主張。13年大会から準決勝前日に休養日が設けられたが、
「1日では疲れは取れないし、乗っているときは毎日投げた方がいいときもある」
と、決勝経験者としての肌感覚を伝えた。その上で、
「過保護になればなるほど、力のある私立校が有利になると思う」
との考えを述べている。