「出口への第一歩」との分析も
実は、今回の決定会合では審議委員間の意見が割れ、妥協の産物としての決定だったことが、後日分かった。
8月8日に日銀が公表した今会合の「主な意見」によると、複数の政策委員が金融機関などへの副作用に懸念を示す一方、より積極的な緩和を主張する「リフレ派」とみられる委員から「緩和自体の強化が必要」との意見も出され、他方、「目標実現に向け強力な緩和を長く続けられる形とすることが重要」と、フォワードガイダンスの必要論も出た。現在の審議委員には、若田部昌澄・副総裁を筆頭に、リフレ派が3人いるとされ、結局、若田部氏を除く2委員が今回の決定に反対票を投じたことはすでに明らかになっている。
ある日銀関係者は今回の決定を、「物価見通しの一段の引き下げ→緩和の長期化→副作用への配慮」の三段階を見据えた論法と解説する。春先から物価の伸び悩みが顕著になり、物価見通しの下方修正が不可避になる中で、「追加緩和が必要」とのリフレ派の動きを封じるため、フォワードガイダンスで緩和の長期化を示し、そうなれば副作用の議論も必要という意見が通りやすい――というわけだ。実際、そうしたシナリオ通りに決定会合は運んだようで、「国債やETFの買い入れを緩めるとしたものの、数値は謳わないという配慮で、若田部氏を賛成につなぎとめ、黒田総裁は面目を保った」というわけだ。その結果、全体に、歯切れの悪い言い回しになった。
実に分かりにくい今回の決定について、「出口への第一歩」との明快な分析もある。日銀審議委員を2017年7月まで務め、早期に緩和からの「出口」を探るべきだと主張してきた木内登英・野村総研エグゼクティブ・エコノミストはマスコミへのコメントなどで、今回の修正を「副作用への対応を主眼にした事実上の正常化だ」(朝日2日朝刊、日経8日朝刊)と指摘。0.2%という長期金利の新たな上限についても、金利上昇はここにとどまらず、市場に押される形で「出口」に向かうとの見方を披露している。
いずれにせよ、2019年10月の消費税率の10%への引き上げをクリアするまで、日銀は現行の政策を続けるというレールが、ひとまず敷かれた。だが、米中貿易戦争の激化や途上国の金利暴騰、円高などショック的な状況が起こらない保証はない。大規模緩和からの「出口」がなお遠い日銀に、万一の時にとれる政策の選択の幅は、極めて狭いままだ。