公的機関を離れた純民間の種子の値段は数倍の高値に?
民間の活動を奨励すること自体は良いことのように思われるが、それで食料の供給は大丈夫かが問題だ。これを考えるうえで、種子の供給の仕組みを見ておく必要がある。
コメの場合、まず県の農業試験場などで「原原種」が生産される。開発した優良品種をまじりっけなしに、公的機関が毎年責任を持って生産し、維持するもので、音楽のCDに例えれば「原盤」にあたる。これを増やした「原種」は特定の種子農家のもとでさらに増やされ、一般の農家に販売される。
民間の種子の供給は違う。モンサント(米国)やバイエル(ドイツ)などの巨大企業が世界の種子市場を席巻しており、主要8社で世界市場の8割を占める。野菜は種子法の対象ではないが、かつて100%国産だったのが、今や9割が外国産で、しかも、その大半が「F1種」といわれるもの。収穫量の多い品種と特定の病気に強い品種を交配して、収穫量が多く病気に強い種子を作るというように、異なる特性を持つ品種を交配し、「両親」の優れた性質が子の代だけに均質に受け継がれることを利用したもの。「子」の代を収穫して撒いてできる「孫」の代になると、品質がバラついて使えない。このため、農家は毎年、F1種を買い続けることになる。農業試験場といった公的機関を離れた純民間の種子の値段は数倍の高値になるといわれる。
巨大外国企業の支配が強まると、種子の価格の高騰のほか、遺伝子組み換え作物の栽培に道を開くのでは、という懸念もある。また、「野菜などの例では、種子と、それに合う農薬、肥料がセットで使わされることになる」と、農業団体関係者は、農薬の拡大にも懸念を示す。
さらに、都道府県の予算や研究体制縮小で、「効率」に合致しないものが切り捨てられる恐れもある。よく出される例が、愛知県の中山間地域向けの奨励品種「ミネアサヒ」。流通量が少なく「幻の米」と呼ばれるように、わずか約1400ヘクタールでしか栽培されていない。民間は、基本的に大量生産による効率化だから、地域の資源ともいえる少量の銘柄の開発は難しくなるのでは、と指摘されている。