現代の「行き倒れ」たち
行旅死亡人。いささか乱暴に要約するならば、それは、
「引き取り手がなく、自治体にゆだねられた『身元不明』の死者」
ということになる。
身元不明の遺体が見つかった場合、まず対応するのは警察だ。一通り捜査が終わると、今度は遺留品とともに自治体に引き渡される。自治体では火葬に回すとともに、戸籍などをさらに精査する。それでもなお身元がわからない場合、その死者は行旅死亡人となり、官報に公表される。
根拠となるのは、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」だ。明治32年=1899年に作られた古い法律である。条文からして「此ノ法律ニ於テ行旅病人ト称スルハ歩行ニ堪ヘサル行旅中ノ病人ニシテ......」といかめしい。
当時、この法律が想定していたのは、「行き倒れ」と呼ばれるような困窮者だった。しかし現代は、さまざまな事情を持つ人々が、「行旅死亡人」として取り扱われている。
※なお、身元は判明しても、親族が引き取りを拒否するケースも多い。その場合、墓地埋葬法に基づき、行旅死亡人と同じように自治体に、その遺体・遺留品がゆだねられることとなる。こうした人も「行旅死亡人」と呼ぶ自治体も少なくない。この記事では広義の行旅死亡人として扱い、狭義のものと合わせて「」付きの「行旅死亡人」と表記する。